(読書感想)堤清二 罪と業 最後の告白(著者:児玉博)
堤清二 罪と業 最後の告白
著者:児玉博
初版:2016年(単行本)・2021年(文庫本)
発行元:文藝春秋
この本は、元セゾングループ代表・堤清二へのインタビューをまとめたものだ(以下敬称略)。
2012年から、堤清二が2013年に亡くなる直前までのインタビューがこの本にまとめられている。
堤清二といっても若い人は知らない人が多いかもしれない。
堤清二が残した事業のうち今も継続しているのが「無印良品」である。
この本の表紙には堤清二と父・康次郎、母・操、妹・邦子の写真が写っている。
この写真は、清二が東京都立第十中学校(現・都立西高校)に入学したときに撮影されたものだそうだ。清二12歳のときの写真である。
この写真を見ると、こどもたちの中で康次郎と一番顔つきが似ているのは義明かな、と思う。母・操は切れ長の目をした和風美人である。
株主の名義貸し
言うまでもなく、西武グループ崩壊のきっかけになったのが、堤清二の異母弟、グループ代表・堤義明の逮捕である。
義明が逮捕された後、西武グループ内での「株主の名義貸し」が明るみになった。
「株主の名義貸し」は西武グループの古参の社員や役員に株主の名義を堤家に貸すよう堤家側が依頼して行われていたものだ。
株の名義貸しにより実際の株主は堤一族であったと堤家側は主張した。
堤清二をはじめとする堤家の人びとは株式の持ち主であると訴訟まで起こした。堤義明と堤一族を支持する側に堤清二が立った経緯が本書で描かれている。
個性が強い堤家のきょうだいたち
それにしても、登場する堤家のメンバーがとにかく「濃い」。
きょうだいそれぞれ性格が違って、ひとりひとり、とても個性的なのだ。
・経営者であって文学者でもある「清二」
・豪快で頭脳明晰な清二の同母妹「邦子」
・猜疑心が強く小心者の「義明」
・物おじしない開放的な性格の「康弘」
・温厚で思慮深く誰からも好かれる性格の「猶二」
と、きょうだいひとりひとり性格が違う。
義明と同母の兄弟が康弘と猶二である。温厚で人望がある末弟・猶二に対しての義明の激しい嫉妬がこの本に書かれている。
猶二への処遇を考え直してほしいと康弘が義明に話したとたん義明が激昂し、同席していた猶二の口に義明が饅頭を詰め込むエピソードは強烈だ。
バカ殿を彷彿させる義明のエピソード
この本には他にも、義明の尋常ではない行動が書かれている。
・毎日2人の社員に命じて父・堤康次朗の墓を掃除させる
・毎年元旦に父・堤康次郎の墓がある鎌倉霊園に幹部社員を集めてセレモニーを行う
のは有名な話だ。
ほかにも、
・庶民が食べているコロッケが食べたいと言って、ロールスロイスの後部座席でコロッケをむさぼり喰う
・子どもの頃に馬乗りをしたことがないからと言って、部下と馬乗りに興じる
・清二との面会をセッティングしてくれた、懇意にしていた元部下を罵倒して追い返す
等、常軌を逸したエピソードが満載だ。
映像化したらきっと映えるようなエピソードが盛りだくさんだ。
「義明の猜疑心が強い性格は側近たちの影響も大きい」とこの本に書かれている。それが正しいのならば、義明という人は気の毒な人だ。
堤家の人々の濃い話が満載
この本には、清二・義明だけでなく清二のきょうだいたちについての話が多く掲載されている。
いつの日か、堤家を題材にした映画やドラマが造られるのではないかと期待している。
自著がいつの日か映画化される可能性を堤清二は予期していたと思うが、どうだろうか。
それ以外にも興味深いエピソードが満載
この本には堤家関係の話のみならず、西武百貨店絡みの興味深いエピソードがあちこちに掲載されている。
三島由紀夫自決時に着ていた洋服は堤清二が三島から依頼されて作ったもので、通夜の際に三島の父親から「あんたのところで服を作ったから息子は自決した」と言われたという有名な話や、西武百貨店で高級宝飾を扱うPISAに島津貴子が就職した際の話が掲載されている。
島津貴子がPISAのアドバイザーの職に就くにあたっては、三菱銀行の元頭取から堤清二のところに打診があったそうだ。宮内庁も「PISAなら」ということで了承したとのこと。元皇族の就職先探しでは、こうやって内々に打診があるものなのだなと思った。
当時の政財界の話を伺い知ることができる面白い本だった。