(読書感想)3000万語の格差(その2)

読書感想「3000万語の格差」

著者:ダナ・サスキンド
出版年:2016年
出版社:明石書店

 

今日の記事は(読書感想)3000万語の格差(その1)の続き。

前回の記事である(読書感想)3000万語の格差(その1)にも書いたとおり、本書「3000万語の格差」で私が一番印象に残ったのは、本書巻末にある、高山静子先生による「解説」と訳者(臨床心理士の掛札逸美先生)による「あとがき」欄だった

本書の「解説」と「あとがき」欄で、私がずっと感じていたことを両先生が代弁して下さっている。

 

多くの保育施設の現状

本書の「あとがき」欄によると、現在の保育施設の多くでは、

・保育者が忙しすぎる(書類書きや行事の準備で追われる)

・個別対応を必要とする子どもが増えている

・常に人手不足で、若手が育つ余裕がない

・有資格/無資格、常勤/非常勤の立場の違いが複雑になり、シフトが細かくなり、園内のコミュニケーションがうまくいかない

という問題が生じているとのことである。

 

マイナスの結果が出ても取り返しかつかない社会実験

本書の「あとがき」欄で私が最も印象に残った掛札先生の言葉を以下、引用する。

「0歳児3人を保育者1人でみていたら、それも数時間ごとに入れ替わり立ち替わりする保育者が1日11時間も12時間もそれ以上もみるなんてことをしていたら、この国の子どもは育たない(この国は早晩、滅びる)」、これが私の確信です。社会のシステムとして、これだけの数の0歳児や1歳児を長時間、施設で預かっている先進国は、日本以外、世界じゅうどこにもありません。日本は壮大な社会実験、それもマイナスの結果が出たとしても後からは決して解決できない社会実験を始めてしまったのです。」

掛札先生のこの見解に私は深く同意する。

仮に私が1日数時間のパートで保育園で働くとしたら、担当する子どもたち全員がそれぞれどんなものに興味があるのかを的確に把握するのは難しいだろう。

子どもたちひとりひとりと過ごす時間があまりにも少ないからだ。

けれども、現在、多くの保育施設では、保育者が入れ替わり立ち替わりして働いている。

ひとりの保育士がひとりのこどもにじっくり向き合うことがとても難しい状況だ。

現在の人員配置のままで、保育園にいる子どもひとりひとりにきめ細やかな声かけをすることを保育士の先生方に要求するのは現実的に無理だ。

ところで、長男を保育園に預けていたときから常々、保育園関係者以外の、保育園を取り巻く教育関係者(療育関係者や幼児教育関係者など)が、保育園を取り巻く環境が年々悪くなっていることをどうして取り上げないのか、不思議に思っていた。

もちろん、保育園で起きている問題について長年熱心に取り上げている方々もいらっしゃる。

けれども、そういう人の数はとても少ない。

けれども、最近になってようやく、保育園関係者以外の教育関係者から、現在の保育施設の問題点を指摘する意見が取り上げられるようになってきている。

本書の「あとがき」と「解説」もそのひとつだ。

 

長男を保育園に預けていたときに感じたこと

私は長男を保育園に預けていて、保育園任せでは子どもの言葉の力は伸びないと強く感じた。

保育士さんたちは仕事として長男をきちんと見てくれたと思っている。

けれども、長男が好きなものを汲み取ったうえで会話を続けていたかというと疑問だ。

特に、言葉を話し始める前の子どもがどんなものに興味を持っているかは、言葉を話さないからこそ、その子どもをつぶさに観察していないと分からない。

子どもをつぶさに観察するなんてことは、保育者に余裕がないとできないだろう。

子どもを細かく観察しろなんて、そこまで保育者に要求できない。

長男を担当する保育士の先生方が手を抜いていたわけではない。

保育士の先生方はいつも疲れている様子が見てとれた。

保育士の先生方があまりにも忙しすぎて、子どもたちひとりひとりにきめ細やかに対応するのが難しいと思った。

長男の様子をこのまま保育園に預けてよいものなのだろうか・仕事を辞めたほうがよいのかと考えた。

けれども、その当時は責任上すぐに仕事を辞めることができない状態だった。

結論として、早くお迎えに行くようにして長男が保育園で過ごす時間を可能な限り短くして、降園後に自宅でしっかりと長男に向き合って対話する時間を作るよう心掛けた。

それが功を奏したか分からないけれど、長男の言葉の遅れは感じられなくなった。

ある保育園に通う子どもたち全体の言語能力が昔より落ちていても、保育園に通わせている保護者は、その保育園に居る間は、個々の子どもたちは言語能力が昔より落ちていることに気づかないだろう。

子どもとしっかりと向き合って会話する保護者が多い幼稚園と、昨今の保育園に通う子どもたちとを比較してみれば、両者の言語能力の差ははっきりと出るだろう。

保育園の現状が急に変わるとは私は思えない。

だから、この問題、つまり「現在、日本の多くの保育施設では子どもと十分なコミュニケーションがとれていないこと」の深刻さに気付いた人は、保育施設に子どもを預けながらも、家庭で子どもと対話する時間を確保する努力をしたほうがよいと思う。

 

(読書感想)3000万語の格差(まとめ)

(読書感想)3000万語の格差(その1)

(読書感想)3000万語の格差(その2)