(読書感想)3000万語の格差(その1)
読書感想「3000万語の格差」
著者:ダナ・サスキンド
出版年:2016年
出版社:明石書店
本書の概要
本書の著者は米国人で、本書は翻訳本だ。
だから米国の社会情勢を知らないと、本書に書かれている内容を理解しにくい箇所もあると思う。
ただ、本書巻末にある「解説」と「あとがき」は日本人の先生方によって書かれているので、本書巻末の解説とあとがきを先に読んだほうが本書を理解しやすいと思った。
タイトルの由来
本書の「3000万語の格差」というタイトルは、知的レベルが高い保護者に育てられた子どもと、そうでない保護者に育てられた子どもとを比較すると、3歳までに聞く言葉の数が3000万語も違うという調査結果から引用したものだ。
著者
本書の著者であるサスキンド博士は人工内耳移植専門の外科医である。
本書によれば、生まれつき聴覚に障害がある子どもが幼い頃に人工内耳を取り付けてあげると、かなり高い確率で聴覚を取り戻すことができるそうである。
サスキンド博士は、人工内耳を埋め込んだ子どもを診察しているうちに、教育熱心である裕福な保護者に育てられた子どもは、人工内耳を埋め込んだのちに言葉の遅れを取り戻せることが多いのに対して、教育に関心がない貧しい保護者に育てられた子どもは、人工内耳を埋め込んでも言葉の遅れが残る傾向があることに気付いた。
つまり、子どもの言葉の発達には保護者の働きかけが非常に重要で、3歳までに聞く言葉の数がその後の子どもの知的発達に大きく影響することの重要性をサスキンド博士は説いている。
そして、言葉の力を伸ばすためには「生まれてから3歳になるまでに保護者が子どもとの豊かな対話を心がけること」が最も効果的であるとサスキンド博士は強調する。
言葉を伸ばす方法とは
本書「3000万語の格差」に書いてある言葉の力を伸ばす方法というのは、
・Tune in(注意と身体を子どもに向けて)
・Talk More(子どもとたくさん話す)
・Take Turns(子どもと交互に対話する)
である。
一言でいうと「子どもが興味を持っているものを把握して、子どもが発した言葉に応答することを繰り返すことで子どもと交互に対話をする」のである。
サスキンド博士が提唱する方法とほぼ同じことを私は長男・次男に実際にやってきた(と自分では思っている)。
その経験からいうと、こういう声かけをすることに慣れてしまえば、サスキンド博士が提唱する方法は難しくないと思う。
本書の感想
本書で提案されている「3歳まで子どもと向き合い言葉の力を伸ばす」方法は、お金をかけずに子どもの知的発達を伸ばすことができる点でとても有用だ。
保護者の働きかけによって子どもの知的発達を促すことができれば、貧しい家庭に生まれた子どもが貧困から抜け出すチャンスを得ることができ、貧しい家庭の親子は将来に希望がもてる。
貧しい家庭に生まれた子どもに貧困から抜け出すチャンスを与えることは、格差を固定化させない重要な鍵だ。
保護者が行うことの重要性
本書で提案されている「言葉の力を伸ばす方法」それ自体は特に目新しいものではないと私は思う。
ただ、サスキンド博士が本書で強調しているのは、本書で提案されている「言葉の力を伸ばす方法」を「保護者」が行うのが最も効果的であるという点だ。
確かに、実際、長男と次男を育ててみて、子どもが興味を持っているものを一番良く知っているのは保護者であることは間違いない。
だから、保護者が言葉を伸ばす方法を実践するのが最適だろう。
よその子どもにも行うことの重要性
加えて、自分の子どもだけでなく、他の子どもにも自分の子どもと同じように「言葉の力を伸ばす方法」を実践するのが好ましいとサスキンド博士は述べている。
「自分の子どもの言葉を育てるのと同じように、他の子どもの言葉も育てる」ことが大切だとサスキンド博士は言っている。
サスキンド博士が言っていることはまるで、競争社会である米国の子育てではなく、発展途上国での子育て(部族の子育て)のようだ。
今の日本の子育て環境を鑑みると、子どもが3歳になる前から保育園に預ける親が増えていて、しかも、保育園では他の子どもと関わることは少ない。
だから、サスキンド博士が提案する方法は日本のほとんどの保育園では実践できないだろう。
サスキンド博士が提案しているような、自分の子どもと同じようによその子どもにも接する機会があるのは、一部の教育機関、たとえば公立幼稚園・親が手間暇かける系の私立幼稚園・自主運営園だけかもしれない。
そう考えると、幼稚園という教育機関は、そこにいるすべての子どもの言葉の力を伸ばすことができる貴重な教育機関かもしれない。
保育園で言葉の力を伸ばせるのか
実は、私が長男を保育園に通わせているとき「保育園に預ける」という選択は、子どもの言語の発達にマイナスかもしれないと漠然と感じていた。
正直に言うと、長男は保育園でたくさん話しかけられているようには感じられなかった。
長男は当時手がかからないタイプだったから、保育園では放っておかれていたかもしれない。
保育士さんたちを批判するつもりはまったくない。
ただ、長男が通っていた保育園の保育士さんたちの働きぶりをみると、担当の保育士さんたちに「もっと長男と関わってください」とはとてもお願いできないと思うほど、保育士さんたちは忙しそうだった。
保育園で言葉の力を伸ばせるか
実は、本書「3000万語の格差」で私が一番印象に残ったのは、後書きにある、高山静子先生による「解説」と訳者(臨床心理士の掛札逸美先生)による「あとがき」欄だった。
後編である(読書感想)3000万語の格差(その2) にて、本書巻末の「解説」と「あとがき」について触れる。