(読書感想)子育て罰「親子に冷たい日本」を変えるには (その1)

野田聖子議員が、児童手当や高校無償化の所得制限の撤廃を訴える有権者をツイッター上でブロックしていたことが最近、話題になっている。

今回紹介するのは、所得制限の撤廃に異議を唱えている本、

子育て罰「親子に冷たい日本」を変えるには

である。

この本(子育て罰「親子に冷たい日本」を変えるには)は、

「児童手当の所得制限はおかしい」

「所得が高い世帯の補助を打ち切って、ほかの子育て支援に回すのはおかしい」

と表明している数少ない本だ。

 

高所得世帯の児童手当が廃止される

昨年末、子育て世帯への10万円給付金の支給に対して所得制限が設けられたことは、記憶に新しい。

所得制限をしないと「高所得者を優遇している」という声が大きく、
子ども関連の補助金の話が出るたびに「所得制限」という話が出る。

今年(2022年)の10月から、
世帯主年収1,200万円以上の子育て世帯の児童手当(月5,000円)が廃止される予定である。

高所得世帯の児童手当を廃止した分で浮いたお金は、待機児童解消に回すとのこと。

子育て支援に本気で取り組むのならば、
特定の子育て世帯の補助を打ち切って、
別の子育て世帯に回すような「椅子取りゲーム」はするべきではない

我が家は幸いにも、今年10月からの児童手当廃止の対象ではない。

でも、この本で指摘されているように、
このままの流れが続けば、
所得制限の基準は世帯主年収1,000万、900万、700万…とどんどん低くなり、
我が家も所得制限の対象になるだろう。

今後、所得制限の基準額が引き下げられて児童手当がもらえなくなる世帯が増える可能性が、
この本でも指摘されている。

稼げば稼ぐほど補助を打ち切るのならば、働くインセンティブは失われる。

高所得世帯に対する補助を撤廃せずに、
高所得世帯にこども3人・4人・5人と、どんどん育ててもらった方が、
こどもの数は増えるんじゃないかと思う。

加えて、この本でも指摘されているように、
児童手当の所得制限の基準が「世帯合算」ではなく「世帯主年収」ある点がそもそもおかしい。

現在の制度では、極端な例でいうと、
夫の年収1200万円・妻の年収0万の世帯(世帯年収1200万円)は児童手当が廃止されるのに、
夫の年収1199万円・妻の年収1199万円の世帯(世帯年収2398万円)は児童手当が廃止されない。

現在の制度は、専業主婦(夫)家庭や夫と妻のどちらかが非正規やパートの家庭に優しくないのだ。

 

認可保育所の空きが増えている

今回、高所得世帯の児童手当を廃止して浮いたお金は、
待機児童解消に回すとのこと。

けれども、ここ数年、東京都内の自治体の認可保育所に空きが増え始めた。

3-5歳児クラスの空きが目立つ自治体が増えている(たとえば渋谷区など)。

それだけではない。

数年前は空きがほとんどなかった認可保育所の0-2歳児クラスにも、
少しずつ空きが増え始めている。

日本の新生児出生数は年々減っており、2021年度は約84万人にまで落ち込んだ。

2015年の新生児出生数は約100万人だった。
6年間で約16万人も出生数が減ったのだ。

もうこれ以上認可保育所を増やす必要はないのに、
なぜ保育所を増設するのだろう。

「高所得者世帯の児童手当を打ち切って待機児童解消に回す」と言うが、
無駄な認可保育所を増設しているだけ、のようにみえる。

 

こどもの貧困について

なお、この本には、こどもの貧困についても併せて説明がある。

「日本では、高所得世帯・低所得世帯のどちらもこども罰を受けている」
という流れにもっていきたかったのだろう。

確かにこどもの貧困はとても大切な問題だ。

けれども、高所得世帯への補助打ち切りとこどもの貧困を同時に語ることで、
どちらも論点がぼやけてしまったように思える。

それが残念だ。

また、この本のこどもの貧困に関する部分については、
ちょっと思うところがあるので、別途、まとめるつもりだ。

 

子育て罰「親子に冷たい日本」を変えるには

著者:末冨芳 桜井啓太
初版:2021年7月30日
出版元:光文社