(読書感想)旧皇族の宗家・伏見宮家に生まれて 伏見博明オーラルヒストリー(著者:伏見博明)

旧皇族の宗家・伏見宮家に生まれて 伏見博明オーラルヒストリー

著者: 伏見博明
初版: 2022年
出版元:中央公論新社

この本は、伏見宮家の当主・伏見博明氏のインタビュー語録である。

青山学院大学の先生方をインタビュアーとして、伏見博明氏が口述した内容をまとめたのがこの本である。

伏見宮家は世襲四親王家のうち最も古く、その起源は室町時代まで遡る。

伏見宮家の広大な屋敷は東京四谷・紀尾井町(現在のホテルニューオータニ)にあった。

紀尾井町に永らくあったブルガリの本店(最近なくなった)の場所は伏見宮家の犬小屋だったそうだ。

 

就学後は母やきょうだいと別の離れで暮らす

ほかの宮家の男子と同じで、小学校入学後は母親やほかのきょうだいとは別の棟で暮らすのが、当時の宮家の習わしだったそうだ。

 

戦後は石油会社の営業として働く

伏見氏はアメリカに留学したのち、外資系石油会社に就職してサラリーマンになり、営業として働いていた。伏見氏はアメリカに留学していたので英語が堪能だったのだ。

この本で伏見氏が「元宮家出身だと商談が上手く行く」と、びっくりするほど率直に語っているのが印象的だ。

伏見氏は元海軍の出身だが、取引先の人が元海軍出身者だったりすると商談が成立することが多かったそうだ。

伏見氏がサラリーマンとして働いていた30年前は「元宮家」の肩書はまだ強力だった、ということだ。

 

昭和天皇の葬儀の話が面白い

昭和天皇の葬儀についての話が興味深い。

昭和天皇の通夜は崩御から約ひと月の間、誰かが交代交代で棺のそばに付き添ったそうだ。棺のそばには昼間は親戚の誰かが、夜間は宮内庁の職員が交代で付き添っていた。

夜は明かりの無い真っ暗闇の中、モーニング姿で静かにじっと椅子に座って付き添っていなければならない。

昭和天皇が崩御されたのは真冬だった。

棺がある以上は暖房を入れるわけにいかないので、付き添いはとても寒かったそうである。

あまり明るみに出てこない天皇の葬儀の様子が伺い知れて面白い。

 

臣籍降下について

「若くして臣籍降下して良かった」とこの本で伏見氏は語っている。一方で、年配になってから臣籍降下した結果、環境の変化に戸惑い苦労していた人もいたそうだ。

普段は民間人、祭祀のときは皇族、のような切り替えが必要とのこと。

「何かあればいつでも陛下をお守りする。何かあればいつでも陛下のお役に立てえるようにする」が信条だと伏見氏は語る。

上皇陛下は好奇心が強い御方だそうだ。たとえば伏見氏が旅行に行くときは、上皇陛下が知りたいと思われること・上皇陛下に知っておいて頂いたほうが良いことを入手するように心がけていたと伏見氏は語る。このような考え方は高松宮殿下や三笠宮寛仁殿下(ヒゲの殿下)とも共通する。

「人は急に宮さまになれといわれて、なれるものではない」という言葉が心に残った。