(読書感想)日本人の真価(著者:藤原正彦)

日本人の真価

著者:藤原正彦
初版:2022年
文藝春秋

 

本書は、著者の文藝春秋での連載を収録したものである。

本書で目を引いたのは、絵本作家・安野光雅氏に関する思い出についてである。

著者が通う小学校に、新しい図工の先生として安野氏が着任したときのことが本書に綴られている。

着任当時の安野氏は、強い天然パーマとギョロ目が特徴の美青年だったそうだ。

安野氏は授業中に物語や詩、数理的な話をしたりと、自由奔放な発想が子どもたちの心をつかみ、瞬く間に学校一の人気者になったとのこと。

小学生時代、著者が数理的な話を安野氏にしたところ、安野氏が大げさに感心してくれたことが、著者が数学の虫となるきっかけのひとつになったという話が本書の中で印象的だった。

著者が小学校を卒業して数年後に安野氏は教師に見切りをつけ、画家・絵本作家としての道を歩みはじめたそうである。

著者は後年、安野氏と対談したときに「数学、文学、郷愁、ユーモアなど私がいま最も大切にしているものをすべて、小学校時代に安野先生に鼓吹してもらった」(以上本書から引用)と話したという。

そんな貴重な出会い、果たして今の小学校に期待できるだろうか。

 

多様性の時代

確かに、小学校から高校まで教わった図工(美術)の先生というのはほかの教師にはない独特の雰囲気があった。

わたしが子どもの頃に通った小学校に居た図工の先生は、ほかの先生方と比べて明らかに一風変わっていて、まるで図工室に棲んでいるかのようにいつも図工室に籠っていた。

当時から図工や音楽の教師というのは、ほかの教師たちにはない感覚で物事を捉えていると私は子ども心に感じていた。

長男が通う小学校では、非常勤講師や図工専科でない先生が図工を教えている。

あの独特な図工専科の教員の姿は今の小学校にはない。

ピアノの演奏技術が求められる音楽教師と違って、図工は誰でも教えられる教科だと学校管理職は判断しているのだろうか。

音楽や図工は国語や算数などの教科と違って直接役に立たないからと、音楽や図工を教える教師はまっさきに人件費削減のターゲットにされているようにみえる。

当時の図工専科の教師を思い出すと「ひとにはそれぞれ違う道がある」と思う。

多様性の時代というが、学校現場にも多様性がほしいものだ。