(読書感想)父と私(著者:田中眞紀子)
「父と私」の著者は、元外務大臣の田中眞紀子氏。
父と私(田中真紀子/2017年/日刊工業新聞社)
田中眞紀子氏は言わずと知れた元総理大臣の田中角栄氏の長女である。
今年(2024年)の正月早々、田中角栄氏の目白の古いお屋敷が火事になったことに驚いた。
この「父と私」という本、読み物としてとても面白かった。
早逝した兄
田中眞紀子氏には年子の兄がいて、病気がちで満4歳で亡くなったそうだ。
兄の名前は正法(まさのり)といい、眞紀子の「眞紀」を訓読みで読むと「まさのり」である。
妹である眞紀子氏は元気いっぱいで、飯田橋から四ツ谷までの線路沿いの土手でズック靴で昇り降りしていたそうだ。
一歩間違えば土手から転落して電車に轢かれることだってあるだろうが、子どもは怖いもの知らずである。
結婚式での名スピーチ
田中眞紀子氏の結婚式での田中角栄氏による、長い長い名スピーチが心を打つ。
田中角栄氏は仕事から帰宅した後、小学生の眞紀子氏に対しても仕事と同じように政治について丁寧にレクチャーをしてくれたそうだ。
眞紀子氏が幼い頃「なぜ政治家を志したのか?」と質問したところ、角栄氏は「政治には愛が必要だ。大きな意味での人民愛、そのことが世界平和を築くものになるのだ」と決然として答えたという。
政治家の秘書について
政治家は普通、秘書については口をつぐむのだが(この本でもそう書かれている)、眞紀子氏はこの本で「政治家の秘書」というものについて正直かつ率直に語られているのが面白かった。
田中角栄のような大物政治家になると、多種多様な人が事務所に出入りする。
秘書同志で権力争いをするのはもちろんのこと、後に本を書くのを目的として事務所に居つく秘書や、「田中角栄の秘書」という肩書を利用して勝手にふるまう秘書まで、ありとあらゆるタイプの秘書がいるという話が興味深かった。
土井たか子氏との交流
そのほかに、田中眞紀子氏と土井たか子元・衆議院議長との親交についての話が興味深かった。よく二人で食事に行く機会があったとのこと。
土井氏に「お父様(田中角栄)はとても素敵な方だった。特別、魅力的な人だった。国会の廊下ですれ違うだけでも”熱風”が通るようだった。」と打ち明けられたそうだ。真紀子氏は当時若手官僚だった人からも同じような話を何度か聞かされたらしい。
田中角栄氏はとにかく「熱い」人で、相当に強いオーラの持ち主だったことがうかがえる。不世出の人である。