(読書感想)もうワクチンはやめなさい(著者:母里啓子)
世間では「反ワクチン」というと、何やら特定の信条・こだわりがある人たちを指すらしい。
反ワクチン→自然派育児に繋がる系統ともいえる。
わたし自身はコテコテの反ワクチン派ではない。最近インフルエンザの予防接種を止めることにしたけれども、そのほかの予防接種は一通りこどもたちに受けさせてきた。
たとえば「B型肝炎ワクチンは本当に必要かな?」と思いつつ、今までは、言われたままに予防接種をこどもたちに受けさせてきた。
この「もうワクチンはやめなさい」という本には極端な思想ではなく、「ワクチンを接種するかどうかは個人の判断による」という当たり前のことが正論として書かれている。決して「トンデモ本」ではない。
もうワクチンはやめなさい(母里啓子)
「もうワクチンはやめなさい」の著者は医師で、公衆衛生・感染症分野に長年携わってきた専門家である母里啓子氏。
著者はこの本で一概に「ワクチン=ダメ」とは言っているわけではない。
「必要に応じて必要な場でワクチンを接種するのは大切なことだ」と著者はこの本で述べている。
「もうワクチンはやめなさい」では一例として、第一子妊娠中に風疹抗体が低くて不安だった女性が第二子を希望する場合は、第二子妊娠前に風疹の予防接種を推奨している産婦人科医が挙げられていた。
風疹抗体が少ない妊娠希望者に風疹の予防接種を著者が推奨しているのは、妊娠中に風疹に感染して発症した場合、胎児が先天性異常をきたすケースがあるからだ。
ワクチンが普及して風疹にかかる人が少なくなった結果、妊婦が余計な心配(妊娠中の風疹感染)をしなければならなくなった例である。
そのほか「もうワクチンはやめなさい」には、予防接種の対象になっているもののうち必要性が疑わしいものについて医学的な説明がなされていて、とても参考になった。
巻末の対談では、日本の医学の歴史やスペインかぜで死者が多かった理由についても書かれていて、読み物として興味深かった。
第二次世界大戦中に医師の数が足りず、軍医を粗製乱造したこと、戦後、粗製乱造した軍医にそのまま医師免許を与えたことで医師の質が下がったそうだ。なるほど。
そして、現状、小児科医院にとっては予防接種による売り上げが無視できないものになっているそうだ。
「もうワクチンはやめなさい」の中では、はしかの話が印象的だった。
はしかは感染後に強力な抗体を形成する。はしかの抗体を持つ女性が妊娠した場合、強力な抗体が赤ちゃんに移行するので赤ちゃんは生後しばらくはしかにかかりにくい。
けれども最近は、はしかの予防接種が普及したため、はしかに感染したことがない女性が妊娠することが当たり前になった。はしかに感染していないと強力な抗体が体内で作られないため、0歳ではしかに感染する赤ちゃんが出ているそうだ。
私は3歳ではしかになった。その後40年以上経って次男を妊娠したときもはしかの抗体価は十分高かった。次男にはしかの抗体を渡すことができた。
でも今の妊婦さんははしかの抗体を持たない人が大部分だ。妊娠中も出産後もはしか感染を心配しなければならないのは大変だと思う。
最近は、海外からの渡航者がはしかを発症するケースが増えている。
風疹のように妊娠中に感染すると胎児に影響がある感染症はなおさら心配だ。
「もうワクチンはやめなさい」は、日本の医療の現状と本音が正論として書かれている貴重な本だと思う。