築50年の建物

我が家の近くに築50年ほどの小さな洋館があった。

洋館と言っても、鉄筋コンクリート造りでタイル張りのオシャレな洋館だった。

建築当時としては相当モダンで目立つ建物だった。

わたしはその洋館に住む女の子と年が近くてよく遊んだ。

小さい頃はしょっちゅうこの洋館に遊びに行った。

洋館に住んでいるのは、女の子とそのお母様だった。

お母様はなんとも上品な人で、西洋人のように鼻が高くて美しい人だった。

ところが、いつ遊びに行ってもこの洋館には父上の姿はなかった。

家の中もお母様と女の子以外の人物が住んでいる気配がまったくなかった。

女の子の父上について触れることはなんとなく憚られたし、
わたしの両親に女の子の父上について聞いても的を得た答えは返って来なかった。

お母様の気高い雰囲気からして、お母様は有名政治家かオーナー企業の社長など、相当な大物のお妾さんだったのだろうと今になって思う。

50年前は、お妾さんとその子に小さな洋館1棟をポンと買ってあげられる甲斐性がある男性がいたのだ。

今はその洋館も取り壊されて、重厚感がない今風のアパートに変わってしまった。

タイル職人が手仕事で1枚1枚貼り付けた外壁を有する建物は最近、どんどん減っているようにみえる。

50年経って人間だけでなく、建物も重厚感がないものが増えているようだ。