(読書感想)スポーツ毒親(著者:島沢優子)

こどものスポーツにのめり込む保護者が私の周囲にたくさんいる。

我が家の場合、子らは親に似て運動神経が良くない。だから、幸いにも少年スポーツにのめり込まずに済んでいる。

都大会、全国大会…と競技のレベルが高くなればなるほど、熱心な親が増えていく。

この本の著者自身、我が子がバスケットボールをやっていたとき毒親だった、と告白する。

スポーツ指導者からの暴力・性被害、少年野球のお父さんコーチとお茶当番の問題、柔道での重大事故など、今の少年スポーツの問題点がこの本には網羅されている。

毒親になってしまったら、この本を読もうとすら思いつかないだろう。

こどもがスポーツを始める前にこの本『スポーツ毒親』を読んでおくことをおすすめする。


スポーツ毒親/島沢優子/文藝春秋/2022年

 

周囲による事件の隠ぺい

この本『スポーツ毒親』には「指導者が高名であればあるほど、少年スポーツで子どもの自死や重大事故が起きても、ほかの保護者や競技団体は指導者を擁護する」事例がいくつも紹介されている。

高名な指導者が潰されると、自分のこどもが名を上げる道が閉ざされるからだ。

この点は闇が本当に深い。

この本『スポーツ毒親』を読んで改めて「わが子を少年スポーツにのめり込ませたくない」と思った。

特に集団スポーツは、熱心な親と熱心でない親との温度差が大きすぎるのが問題だ。子どもがスポーツで名を売って進学することを望む熱心な親が、熱心でない親を排除しようとする。

スポーツで高い実績を出している子どもたちの中に「中学(高校/大学)に入学したらこの競技を止めるつもりだ」と話す子は少なくないと著者は言う。

その競技に長い間打ち込んできたのに「このスポーツはもう、こりごり。続けたくない。」と思わせてしまうような体験をした、ということだ。

少年スポーツは本当に闇が深い。

 

スポーツ指導者からの性暴力

この本『スポーツ毒親』で印象に残ったことが2つある。

1つ目がスポーツ指導者からの性暴力である。

この本には、バスケットボールのある指導者による性暴力が取り上げられている。

この指導者からは「ひと晩一緒に横に寝てくれたら試合に出してあげる」と生徒に迫り、性暴力を繰り返していたそうだ。

「試合出場という報酬と引き換えに性行為を要求する」のは、ジャニー喜多川による未成年へのパワハラ性暴力を彷彿させる。悪質である。

 

柔道で息子が重篤な障害を負った保護者による必死の調査

この本『スポーツ毒親』で印象に残った2つ目の点が、柔道部の顧問の指導によって息子が重篤な障害を負った保護者の話である。

この本は「スポーツ毒親」に関するものだが、この保護者は例外で「スポーツ毒親」ではない。

息子が柔道で重篤な障害を負ってしまった保護者の方が、支援者と一緒に諸外国の柔道連盟に問い合わせをするなどして調査した結果、柔道で死亡事故があるのは近年は日本だけで、外国では近年、柔道での死亡事故がないことが明らかになったそうだ。

外国の柔道連盟からは「なぜ日本だけ死亡事故がそんなに起きているのですか?」と逆に尋ねられたそうだ。

これを受けて、文部科学省でも独自に調査をした結果、外国での柔道の死亡事故がないことが判明した、とこの本にある。

わたしは、外国では柔道の死亡事故や重大事故がないことをどこかで読んで知っていた。

ただ、それが熱意ある保護者の調査によって明らかになったのだと、この本を読んで初めて知った。

それまでは「柔道は武道だから死亡事故が起きても致し方ない」という考え方だったそうだ。

柔道の本家本元の日本でだけ死亡事故が許されるというのはおかしいだろう。

 

公立中学の部活動の民間委託は致し方ないかも

公立中学での部活動の民間委託への移行が発表されてから、早いもので数年が経過した。

この本『スポーツ毒親』を読んでみて、生徒の自死、指導者による性暴力や重大事故がこんなに起きているのならば、国が部活動の民間委託を決めるのは致し方ないと思った。

 

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