「授乳・離乳の支援ガイド」の改定について思うこと

厚生労働省が「授乳・離乳の支援ガイド」の2019年度改定版を発表した。

今回改定された「授乳・離乳の支援ガイド」には「母乳にはアレルギー予防効果はない」との知見が加わった。

最新の研究結果で、母乳には優位なアレルギー予防効果はないことが判明したとのことだ。

また、今回改定された「授乳・離乳の支援ガイド」には

「授乳の支援に当たっては母乳だけにこだわらず、必要に応じて育児用ミルクを使う等、適切な支援を行うことが必要である」

という、新たに販売された乳児用液体ミルクに関する記載が追加されている。

そこで今回は、新たに改定された「授乳・離乳の支援ガイド」をについて思ったことを記す。

 

母乳のネット販売?

改定された「授乳・離乳の支援ガイド」には、母乳がネット上で取引されていることに関する注意喚起が書かれている。母乳をネット取引するとはビックリ!だ。

厚生労働省のウェブサイトや消費者庁のウェブサイトでは、母乳のインターネット販売について注意喚起している。

事実、HIV(ヒト免疫不全ウイルス、いわゆるエイズウイルス)や HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)などのウイルスは母乳を介して感染する可能性がある。

 

もらい乳

昔は親類やご近所の人から「もらい乳」なんてことが普通に行われていただろう。

でも今は、母乳を介して感染するウイルスが知られている。

だから、どんなウイルスを持っているか分からない人の母乳を赤ちゃんに飲ませるのは危険だ。

 

育児支援者の暴言?に悩む母親たち

私も、母乳の分泌が決して良いとはいえないタイプである。

私自身は、育児支援者から否定的な言葉をかけられたということは今までななかった。

けれども、産後ヘルパーなどの育児支援者から育児に関して否定的な言葉をかけられたという話を母親達から聞いたことがある。

「無痛分娩したせいで子どもがお乳を飲みたがらないのだ」と育児支援者から言われたという話を母親から直接聞いたこともある。

今までいろいろな育児支援者と会ってきたけれども、母乳育児の信仰者と思えるような育児支援者も多いと私は感じている。

「母乳が一番」教の育児支援者だ。

一方で、母親が母乳育児にこだわるあまり、赤ちゃんの体重があまり増えておらず、ミルクを追加するよう医師が母親をなんとか説得しようとしている場面に遭遇したこともある(3-4か月検診にて)。

そういえば、話は逸れるけど、集団検診ってプライバシーゼロの場合が多くて困る。

聞きたくなくても、医師と他の方との会話が丸聞こえのところが多い。集団検診、もう少しプライバシーに配慮してほしい。

話を元に戻そう。

今回の「授乳・離乳の支援ガイド」の改訂からは、母乳育児を推進するあまり、母親を追い詰めるような傾向に歯止めをかけたいという狙いを感じる。

 

日本の母乳育児の割合は誇るべきもの

授乳・離乳の支援ガイド」に示されているように、生後3か月で母乳のみ・母乳ミルク混合と合わせて89.8%で、日本では9割近い人が母乳育児をしている。

日本の母乳育児の割合は世界に誇れるほど高いということだ。
私が知る限りでは、アメリカ・フランス・イギリスなどの先進国では、日本に比べて比べ物にならないほど母乳育児の割合が低い。

 

半世紀前はミルク全盛世代

よく知られた話ではあるけれど、今から半世紀前はミルク全盛時代だった。

1970年の母乳育児の割合は31.7%だったそうだ。

50年前に3割だった母乳育児の割合が、今では9割近い。

実際、私自身も完ミで育っている。

母親に聞いたところ、当時は授乳指導のようなものはなく、病院には粉ミルクメーカーの営業マンのような人が出入りしていて、病院から粉ミルクのサンプルを山ほどもらえるような環境だったとのことだ。

半世紀前に31.7%だった母乳育児の割合を現在の9割近い数字まで押し上げるには、育児支援者たちのたゆまぬ努力があったと思う。

 

私見

液体ミルクの使用をどうして「国」が奨めるのだろう

ここ50年で母乳育児の割合を高めることができたのは、母乳が免疫学的に最良であるという事実に基づいて、母親が子を想って母乳育児に励んだのと育児支援者のたゆまぬ努力と啓蒙の成果だろう。

一方で、「共働き世帯の負担を減らす」とか「保育園に預けるときに便利」とか「父親も授乳できる」とかいう理由で、液体ミルクの使用を国が勧めるような風潮はちょっと疑問に思う(乳児用液体ミルクについての雑感)。

母乳育児を礼賛する風潮のせいで精神的に追い詰められたという人が少なくないので、そういった声に配慮したのかもしれない。

ただミルクか母乳かは体調や環境、仕事などを考慮して母親が決める話だ。

お上が決めることではない。

液体ミルクの使用が真に必要な人たちを除いて、単に簡便だからという理由で液体ミルクの使用を奨める方向に進んでしまっていいのだろうか?と思う。

液体ミルクを使わせようとする何らかの力(業者?)の働きかけがあるのでは?とどうしても勘ぐってしまう。

 

「愛着形成」より「不安解消」

今回改定された「授乳・離乳の支援ガイド」では、育児に不安を感じている母親が多く、母親の不安を解消することに主眼が置かれているように感じた。

それだけ育児に不安を持つ母親が多いと医療従事者が感じているのだろう。

ただ、今回改定された「授乳・離乳の支援ガイド」には「母乳にはアレルギー予防効果はない」と明記された。

その一方で、母乳が持つその他の免疫学的効果や、授乳による愛着形成については一応言及があるものの、大きく取り上げられていないのはなぜだろう?

「母乳にはアレルギー予防効果はない」のが事実だとしても、母乳には多くの抗体が含まれており、「細菌やウイルスに対する感染予防効果」がある。

最近は乳児の頃から保育園に預けられる子どもが多い。

保育園などの集団生活では細菌やウイルスに触れる確率がどうしても高くなる。

保育園入園後も母乳育児を続けることで、細菌やウイルスに対する感染予防効果が得られると思うのだけど。

「授乳による愛着形成」という話になると、なんらかの事情でミルクで育てた人たちから「母乳にこだわる必要はない」・「ミルクで育てていても子どもはきちんと育ちました」という反論が出てくる。

確かに母乳にこだわる必要はないのだ。

私自身、完ミで育って無事成人している。

完ミで育った私自身、母乳で授乳できる状態ならば、母乳育児による愛着形成に越したことはないと思っている。

子育ては積み重ねだから、母乳育児したからそれでパーフェクトではなく、母乳育児しなくても他の方法で愛着形成できればそれで良し、だと思う。

だからといって、母乳育児は立派な愛着形成の手段には変わりはない。

母乳育児ができる状態ならば母乳育児を続けることを否定してはならないと思う。