70年代生まれとスティーヴィー・ワンダー
わたしが洋楽に興味を持ち始めたのは中学生の頃だ。
当時、80年代初頭。
スティーヴィ―・ワンダーは、ポール・マッカートニーとのデュエットで、『エボニー・アンド・アイボリー(Evony and Ivory)』という大ヒット曲を歌っていた。
言うまでもなく『エボニー・アンド・アイボリー』というのは、ピアノの「黒鍵(Ebony)」と「白鍵(Ivory)」を意味する。
要するに『エボニー・アンド・アイボリー』は、黒人と白人をピアノの黒鍵と白鍵にならえて、黒人と白人の調和をテーマにした曲だ。
この曲の歌い手である、ポール・マッカートニー(白人)とスティーヴィ―・ワンダー(黒人)がこの曲のテーマを象徴している。
思い出深い年「1984年」
そして1984年。
1984年は当時中学生だった私にとって、とても思い出深い年だ。
この年、ロサンゼルス・オリンピックがあった。ヴァン・ヘイレンの「1984」というアルバムがヒットした。
1984年は、狂乱のバブル期を迎える直前の、穏やかだけれども活気あふれる年だった。
この年、スティーヴィー・ワンダーは『心の愛(I just call to say I love you)』という大ヒット曲を世に放つ。
『エボニー・アンド・アイボリー』と『心の愛』はどちらもゆったりとしたバラードだ。
当時の私にとってスティーヴィー・ワンダーは、『エボニー・アンド・アイボリー』と『心の愛』を歌った人という印象だった。
『心の愛』が大ヒットした頃は、体を揺らしながらキーボードを弾くスティーヴィー・ワンダーのものまねが、テレビのものまね番組に登場するのをよく見かけた。
そんなことがあったくらい、『心の愛』は日本でヒットした。
スティーヴィー・ワンダー自身が親日家で、日本のテレビ番組に出演したこともあったのも、スティーヴィー・ワンダーの知名度が上がったことと無縁ではなかろう。
当時のわたしのように「スティーヴィー・ワンダー」=80年代のヒット曲『エボニー・アンド・アイボリー』や『心の愛』を歌う人だと思っている70年代生まれは多いと思う。
70年代のスティーヴィー・ワンダー
けれども、多くの方がご存知の通り、スティーヴィー・ワンダーが最も精力的に活動していたのは80年代ではなく、70年代である。
そのことをわたしは35歳過ぎてから知った。
70年代以降に生まれた人は、スティーヴィーが一番輝いていた時代をリアルタイムで知らない。
みんなが言うように、70年代のスティーヴィー・ワンダーというのは何というか…神がっている。
わたしは2,000年以降に70年代のスティーヴィー・ワンダーの曲を聴いて、あまりの素晴らしさに衝撃を受けた。
「いったいわたしは今まで何を聞いてきたのだろう?」
「今頃になって70年代のスティーヴィー・ワンダーを知るなんて、人生を無駄に生きてきた」
とさえ思った。
そして、時代を遡るようにスティーヴィーの曲を聴いた。
まあ実際は、70年代のスティーヴィー・ワンダーの曲は今まで至る所で使用されているので、聴いたことがある曲はたくさんあったのも確かだ。
スティーヴィー・ワンダー・おすすめの一枚
そんな70年代のスティーヴィー・ワンダーのアルバムの中で「何が一番お薦め?」と問われたら、個人的には1976年発売の『キー・オブ・ライフ(Songs In The Key Of Life)』を選ぶ。
天才ミュージシャンというのは、最盛期に数多くの名曲を次々と精力的に生み出すことができるものらしい。
この『キー・オブ・ライフ』からは、天才ミュージシャンであるスティーヴィー・ワンダーの最盛期に生み出された狂気が感じられる。
キー・オブ・ライフ(Songs In The Key Of Life)
『キー・オブ・ライフ』は売れに売れた。
米ビルボード誌のアルバム部門で14週間1位を獲得した。
『キー・オブ・ライフ』はそれまでのスティーヴィーと比べると、数多くの一流ミュージシャンが制作に参加している。
『キー・オブ・ライフ』は、膨大な時間をかけてトップクラスのミュージシャンとの協働で生まれたからこその、質の高さ・表現の多様さ・楽曲のエネルギーの高さが感じられる。
『キー・オブ・ライフ』の評価・制作現場については、たとえば次のサイトにまとめられている。
スティーヴィー・ワンダー・おすすめの一曲
同じように「スティーヴィー・ワンダーの曲でお薦めの曲は?」という質問にも答えに窮する。
彼の膨大な数の名曲の中から1曲を選ぶのは本当に難しい。
でも曲の持つ強力なパワーという点で敢えて1曲選ぶならば、『キー・オブ・ライフ』に収録されている『アナザー・スター(Another Star)』だろうか。
『アナザー・スター』はサンバ調の曲で、先述した80年代のヒット曲『エボニー・アンド・アイボリー』や『心の愛』とは同じ人から作られたとは想像がつかないほどパワフルだ。
『アナザー・スター』を聴いていると、なんと言うか、全身に力がみなぎってくるような感覚に襲われる。
たとえば、サザンオールスターズの『勝手にシンドバッド』、八神純子の『みずいろの雨』、久保田利伸の『You Were Mine』など、『アナザー・スター』にインスパイアされて作られたようにお見受けする曲は数多い。
多くのミュージシャンをインスパイアしたほど、この『アナザー・スター』は魅力的な楽曲なのである。
『アナザー・スター』が収録された1976年発売の『キー・オブ・ライフ』を是非聴いてほしい。
もちろん『キー・オブ・ライフ』には『アナザー・スター』以外にも名曲が多数収録されている。
『愛するデューク』や『可愛いアイシャ』などの有名な曲が収録されているほか、『As』、『Ordinary Pain』、『Pastime Paradise』、『Summer Soft』など、捨て曲は1曲もない。
『キー・オブ・ライフ』というのは、長年聴き続けて自分が年をとっていくとともに、ステキだと思う曲が増えていく不思議なアルバムである。