(読書感想)思い出の昭和天皇(1989年・光文社)
『思い出の昭和天皇』という本は、
昭和天皇が崩御された年の暮れに出版された。
この本は、三笠宮寛仁殿下が呼びかけ人となって出版された本である。
現在は新品を購入することは難しいようだが、
この本を収蔵している図書館は結構あると思う。
この『思い出の昭和天皇』は一言で言うと、
親戚筋(現・旧皇族の方々)による昭和天皇の思い出を綴った本である。
この本には、
秩父宮勢津子妃と高松宮喜久子妃の対談、
昭和天皇の外孫である東久邇信彦さんと壬生基博さんとの対談、
そして三笠宮寛仁親王の寄稿が掲載されている。
池田厚子さんがこの『思い出の昭和天皇』で、
昭和天皇の思い出を綴っていることは先日取り上げた。
池田厚子さんによる寄稿は珍しい。
加えて『思い出の昭和天皇』の中でわたしが印象に残ったのは、
三笠宮寛仁親王が語る昭和天皇の思い出だ。
三笠宮寛仁親王が語る昭和天皇の思い出
瞬時に人を見分ける能力
三笠宮寛仁親王はこの本の中で、
「陛下はまわりの人びとに的確に的を得たご質問をなさって、
これ以上はないという感動を呼び起こすお言葉をかけてこられた」
「陛下の場合は、事前に十分勉強されているとはいえ、
分野・職種・職域・年齢・性別などを瞬時に見分けて、
その相手にもっともふさわしい質問やお言葉を投げかけられるという超人的な能力が
おありになった」
と話す。
以前取り上げた経済学者・宇沢弘文も同じことを語っている。
昭和天皇は長い間多くの方々と会ってきて、
相手の属性を瞬時に見播ける能力を身に付けられたのだと思う。
真実を推察する能力
また、三笠宮寛仁殿下は、
昭和天皇の真実を推察する能力の高さに舌を巻いている。
昭和天皇と実際に面会して御進講する人物はおおむね地位が高い人で、
現場の生の声については知っていていても語らない、
当人にとって都合が良い情報のみを昭和天皇に語るのが常である。
けれども、昭和天皇は常に、
現場の人びとがどう考えているかに思いを巡らせており、
現場の人たちの実情に即したご質問をされていたそうだ。
昭和天皇は戦前・戦中・戦後にわたる長い経験から、
地位が高い人はたいがい現場の声を語らないと悟っていらっしゃったのだろう。
昭和時代:昭和天皇をお支えする体制が整っていた
昭和天皇がお元気だったころは、
弟宮である高松宮・三笠宮亮殿下がまだご健在で、
「昭和天皇をお支えする」という共通認識が皇族の方々の中にあった。
しかし現在はどうだろうか。
天皇陛下をお支えする男性皇族のなかで現役として活躍されているのはは現在、
秋篠宮殿下おひとりである。
思い出の昭和天皇
著者:秩父宮勢津子・高松宮喜久子・寛仁親王・池田厚子・東久邇信彦・壬生基博
初版:1989年12月
光文社