(読書感想)「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット(著者:前沢明枝)

有名な絵本「エルマーのぼうけん」を書いた人はどんな人なのか、知っている人は少ないと思う。

この本は、「エルマーのぼうけん」を書いた女性(ルース・S・ガネット)へのインタビューで構成されている。


表紙は「エルマーのぼうけん」の著者のガネットさん

この本のタイトル(「エルマーのぼうけん」をかいた女性)にあるように、「エルマーのぼうけん」の著者は女性で、しかも、絵本作家として生計を立てていた人ではなく、7人もの娘を育てた主婦なのだ。

「エルマーのぼうけん」の著者であるガネットさんは寡作の人だ。

ガネットさんは「エルマーのぼうけん」シリーズ3冊と、他の絵本2冊の計5冊しか出版していない。

娘7人を育て上げた女性が、ふだんの生活の合間に書き上げたのが「エルマーのぼうけん」だと知り、驚いた。

この本の巻末にガネットさんの年表が掲載されている。年表によると「エルマーのぼうけん」はガネットさんが23歳のときに書いた本だ。

ガネットさんは仕事として絵本製作をしていたわけでなく、家事をし、こどもたちの世話をするというふだんの生活の合間に、生活の一部として絵本製作をしていたのだ。

 

ガネットさんが通った学校

この本で興味深かったことが2つある。

それは、ガネットさんが小さい頃に通っていた小学校だ。

ガネットさんが通っていた小学校がまるで、黒柳徹子氏が通っていた「トモエ学園」のような学校なのだ。

ガネットさんが通っていた小学校は7歳になるまで字を教えない方針だった。「7歳までは字を教えない」のはシュタイナー教育にも通じる。

その代わり、7歳になるまでは、お話をたくさん聞かせてもらったり、自分でお話を作って発表し、それを先生が書き留めてくれたそうだ。

そして、ガネットさんが通っていた学校は、今の学校とは違って、みんなで同じことを習う方式ではなく、ひとりひとり考えさせる教育をしていた。

3年生になると「仕事」が始まり、文房具店をこどもたちが経営する。

たとえば「ノート5冊と鉛筆3本ではいくらか」を自分で計算し、在庫を確認し、在庫がない場合は発注するそうだ。

ガネットさんの通った学校のように、「勉強」が生活の一部として存在していれば、学校での勉強はもっと楽しくなると思った。

 

アメリカ人の家庭観

そしてもうひとつ、この本を読んで気になったのがアメリカ人の家族観である。

「エルマーのぼうけん」の著者であるガネットさんは1923年生まれだが、ガネットさんが5歳のときに両親が離婚している。

アメリカ社会ではもう100年前から「離婚」が当たり前に存在していたのだ。

離婚したガネットさんの父親はその後、別の女性と再婚している。

絵本「エルマーのぼうけん」の挿絵は、父親の再婚相手の女性(義母)が書いたものだ。

アメリカ社会では両親が離婚しその後再婚することが日本と比べて当たり前である。

ガネットさんは、幼少時に父親が再婚して2つの家族ができることを前向きにとらえて生きているのが印象的だ。

それでも、両親が離婚した頃は通っていた学校の記憶があまり残っていないとガネットさんはこの本で語っている。離婚というのはやはり、こどもに大きな精神的影響があるということだ。

親が離婚・再婚を繰り返すのが当たり前のアメリカ社会では「家族になる努力」が必要な国だ。

一方、日本を含むアジア圏はまだまだ血縁主義である。

アメリカでは血縁関係がアジア圏ほど重視されないので、血縁関係がない人でも努力により親子のような深いつながりを得るチャンスはある。

その一方で、アジア圏では血縁関係がまだ重視されるから、血縁関係がない人が血縁関係の中に入り込むことが難しい。

社会の在り方の違いについて考えさせられた本だった。