登場人物が濃く一読の価値あり(読書感想)家の履歴書 男優・女優編(著者:斎藤明美)
以前も取り上げた「家の履歴書 男優・女優編」(斎藤明美、キネマ句報社)を興味深く読んでいる。
登場する俳優たちの生い立ちがとにかく濃く、一読の価値がある本だ。
「生い立ちが濃い」戦前生まれの俳優たち
週間文春の人気連載「家の履歴書」から印象に残った男優・女優を著者が選び出してまとめたのがこの本である(以下登場人物は敬称略)。
初版は2011年。
登場する俳優は、有馬稲子・淡路恵子・藤山直美・堺正章・高島忠夫・小林旭・三浦友和・坂田藤十郎(当時は中村鴈治郎)・松本白鸚(当時は松本幸四郎)・市川團十郎(12代目)など。
現在70~90代の方が主流で、また、すでにお亡くなりになった方も複数いらっしゃる。とはいえ、中井貴一のように60代の俳優も掲載されている。
10年以上前に発行された本だからだろうか、この本で俳優達が自らの生い立ちについて現在よりも生き生きと語っているように感じた。
私は素人だからよく分からないが、「編集」の際のフィルターが現在よりも甘いのだろうか。たとえば小林旭は、美空ひばりとの最初の結婚に対して率直な想いを述べているし、淡路恵子は、萬屋錦之介と別れた後に錦之介と再婚した女優についても正直な感想を述べている。
どの俳優も生きざまが波乱万丈で濃い。
昔「俳優」という職業を選択する人は、私生活で壮絶な体験をされている人が多かったのね。
特に戦前生まれの方々は戦争を体験しているので、本当に大変な目にあっている方ばかりだ。
中でも印象に残ったのは淡路恵子で、読んでみて面白いと感じたのは堺正章だった。
淡路恵子の壮絶な人生
ご存知な方も多いだろうが、淡路恵子の人生の壮絶さとスケールの大きさに驚く。
最初の結婚はフィリピン人の歌手だった。そのフィリピン人歌手は本国に妻と子どもがいたため、籍をいれずに男の子2人を出産したものの、結局別れる羽目になった。別れる際に当時で3,000万円の慰謝料を支払ったそうだ。
そんな額をポンと払えてしまうのがスゴい。
次の結婚は誰もが知る大スター、萬屋錦之介であるが、錦之介の借金を返済するためにバーのママや地方営業をこなした。その頃に住んでいた神楽坂の屋敷がこの本で紹介されている。
しかしながら結局、錦之介とは離婚し、錦之介は淡路恵子が懇意にしていた年下の女優と結婚する。
その後、錦之介との間に生まれた2人の息子を相次いで亡くすという不幸に見舞われた。なんとも壮絶な人生だ。
堺正章の「家の履歴書」も面白い
父親も喜劇役者だった堺正章のインタビューは、読んでいると、まるで堺正章が語りかけているかのような文体で書かれていたのが興味深かった。
堺正章という人は、子どもの頃は鎌倉の豪邸(鶴岡八幡宮のすぐそば)で暮らしていたそうである。恩人の男性(縁戚関係なし)の面倒を見ていた父親から引き継いで、その男性の面倒をみていたという話が興味深かった。太っ腹である。
そういえば、堺正章が最初の奥様(一般人)と離婚した当時、慰謝料の額が莫大だったため、離婚についてたくさん報道されていたことを、私は子どもながらによく覚えている。
このインタビューは2度目の奥様との結婚が続いている頃のインタビュー記事だったので、娘たちへの愛情が伝わってくる発言も微笑ましかった。
そのほか、先々代のお手伝いだった母親について語る市川團十郎(先代)、ヤンチャだった高島忠夫、子どもの頃の話が壮絶な有馬稲子(子どもの頃は韓国に住んでいた)など、この本は興味深いインタビューが多く読みごたえがある。
「家の履歴書 男優・女優編」(斎藤明美、キネマ句報社)
斎藤明美
2011年
キネマ句報社