(読書感想)経営者交代 ロッテ創業者はなぜ失敗したのか(著者:松崎隆司)

経営者交代 ロッテ創業者はなぜ失敗したのか

著者:松崎隆司
初版:2022年
ダイヤモンド社

 

ロッテ創業者のお家騒動に関する本

この本は、食品メーカー・ロッテに起きた経営者交代劇を取り上げた本である。

この本、面白くて引き込まれて一気に読んでしまった。おすすめ。

ロッテという会社は創業者が裸一貫、一から作り上げた会社である。

この本によれば、ロッテ創業者が高齢のため長男に事業を承継しようとしていた矢先、次男とその一派がクーデターを起こし、次男が会社を乗っ取ったのだ。

2022年現在も次男はロッテホールディングス(ロッテHD)の代表取締役社長である。

オーナー企業の経営について興味がある人におすすめの本である。

 

緻密な事業承継を入念に進めていたのに

この本は、ロッテ創業者である重光武雄(以下、登場人物は敬称略)が、亡くなる30年以上も前から事業承継を入念に進めていたところから始まる。

重光武雄は韓国籍を持つ在日韓国人であり、10人きょうだいの長男である。

儒教の影響が強い韓国は家父長制で長男を重んじる傾向がある。

ロッテという会社は当初、創業者が大半を所有していた。

そのまま相続した場合、相続税の課税対象が1兆円(!)を超えることが判明した為、資産管理会社を設立し、資産管理会社が株式を所有することにした。

資産管理会社の設立以外にも、優秀な国税OBを何人も招聘して節税対策を行っていた。

このように、相当前から事業承継を進めていたのにも関わらず、結局、創業者と長男は会社を追い出され、会社を継いだのは次男だった。

 

全体的には長男寄りの記述

この本を読むとすぐ分かるが、著者は全体的に長男寄りであり、次男に批判的である。

ただ、次男には次男なりの言い分はあるんだろうな、とは思う。

 

緻密で大胆な創業者

この本を読むと、ロッテ創業者の重光武雄が、大胆かつ緻密な経営手法をとっていたことがわかる。

重光武雄はふだん入念に調査したうえで経営判断を下すが、時としては直感で判断し、それが大ヒット商品に繋がることが多々あった。

たとえば、

・キシリトールガム1個の価格を決定する際、1個130円という現場の声を遮って1個120円で販売し、大ヒット商品になる

・パウチ入りアイスクリーム「クーリッシュ」の販売を翌年夏と厳命し、それが大ヒット商品になる

という例が紹介されている。

ここら辺の鋭い勝負勘が創業者ならではで、息子たちをはじめとして誰もが持ちえない能力だったのだろう。

 

金融屋である次男との考えの相違

この本には2人の金融屋が登場する。

ひとりは現社長の次男:重光昭夫であり、もうひとりは銀行出身者の佃である。

このふたりの金融屋が首謀してクーデターが起きたのだ。

 

次男は金融畑出身

重光武雄という人はもともと早稲田高等工学校卒で、終戦後はヒマシ油からポマードを製造していたことからも分かるように、化学に詳しい人であり、技術屋としての側面を持ち合わせていた。

ゆえに、工場でネズミの毛一本見つかっても工場の稼働を停止するなど、重光武雄は品質管理に非常に厳しかった。

また、長男の宏之もまた理工学部出身でコンピュータサイエンスを学んだエンジニア気質である。

一方で、次男の昭夫は経済学部出身でコロンビア大学大学院を出てMBAを取得し、野村証券で働いていた金融マンである。

金融畑出身者がメーカーの経営をするときは必ず「現場を知らない」という批判が起こる。

確かに、金融業界出身の社長によるメーカーの経営は上手く行かなかったりすることもままある。

創業者がもともと次男に継がせる気があれば、早い段階から次男を積極的に製造現場に立たせて経験を積ませただろう。でも創業者がそれをしなかったのは、次男に継がせる気がなかったのだとわたしは思った。

でもそれが逆にアダとなってしまい、クーデターが起きた。

 

最後は金融屋にしてやられた

ロッテ球団の運営は岸元首相からの依頼だったこと・ロッテホテルの建設は朴元大統領からの依頼だったことなど、重光武雄は時の有名政治家との繋がりがあったとこの本にはある。

重光武雄は非常にスケールが大きな人だったのだ。

それでいて身の丈に合った堅実な経営を続け、ロッテはリストラ等で人員削減をしない家父長的な企業でもあった。

事業承継にあたり、創業者である武雄は銀行出身者の佃を番頭として任せて長男を後継者にするつもりだったのが、それは叶わなかった。

日本の事業は長男が、韓国の事業は次男が、それぞれ統括していた。

ホテルや流通、重化学工業まで手掛ける韓国の事業規模のほうが、食品中心の日本の事業規模よりはるかに大きいにも関わらず、韓国の事業は結局、日本(=長男)の意思決定がないと進まないことに次男は不満だったのだろう。

そして、この本にも書かれているが、なんでも話し合いで決める日本的なロッテの風土に次男は違和感があったのだと思う。

事業の一部を本体と完全に切り渡して次男だけに譲渡すれば、クーデター起きなかったのかもしれないが。

最後の最後で「現場を知らない金融屋にしてやられた」

残念だが、そう感じざるを得ない。