(読書感想)グロテスク上・下(著者:桐野夏生) 書ききれなかったこと(追伸)

前回、小説「グロテスク」を読んだ感想について書いた。

(読書感想)グロテスク上・下(著者:桐野夏生)

今回は、小説「グロテスク」について書ききれなかったことをまとめる。


桐野夏生「グロテスク」上・下(文春文庫)

 

東電OLとQ女子高

東電OL殺人事件の被害者は、小説「グロテスク」で登場するQ女子高のモデルといわれる高校に通っていた。

もし被害者がQ女子高のモデルとなる高校に進学せずに地元の公立高校などに通っていれば、このような事件に巻き込まれることはなかったと思う。

でも被害者が高校に進学した当時はネットもSNSもなく、高校の実態を知るには口コミ以外になかったから仕方がなかっただろう。

被害者は生真面目で几帳面な性格だったから、公務員向きの人だったと思う。

学業優秀だから公務員試験に合格し、地方公務員として地元の区役所で働くことも可能だったはずだ。公務員になっていれば定年まで勤めあげて退職し、今頃は悠々自適の暮らしを送っていたのかもしれない。

けれども、優秀かつ支配的な父親に期待されて育ったこと・その父親が大学在学中に急死して後ろ盾を失ったこと・残された母と妹を養うために生活費を稼がなくてはならなかったこと・女性総合職を企業が採用し始めた時代に就職したこと…様々な要因が重なり、このような事件が起こってしまったのだろう。

対照的に、今の時代はネットやSNSで学校の生の情報を収集できる。

これはやはり大きなメリットだ。

小説「グロテスク」に登場するQ女子高では、卒業した後も「内部生」と「外部生」という意識が残るほど内部生と外部生の壁は厚い。

小説「グロテスク」に登場するユリコのように容姿端麗か、あるいは余人に代えがたいほどの特技を持っているならば、Q女子高に進学してもカースト上位で居られる。

でも「勉強以外は普通の地味な外部生」がカースト上位に居られる可能性は少ない。

Q女子高がいくら名門とはいえ、高いお金を出して「貧乏人」とか「不細工」とかいう理由で差別されるのを承知でわざわざ進学するのはもったいないような気がする。Q女子高に行かずとも、学問を究められる学校は他にあるから。

昔よりも格差が広まった分、人々は格差に敏感になっている。

内部生と外部生の壁を嫌って、今は、中学受験・高校受験で受験校を選ぶ際、下(付属の幼稚園や小中学校)がある学校を選択しない家庭も多いと聞く。

 


東電OLの直属の上司

そしてもうひとつ。

小説「グロテスク」には、東電OL殺人事件の被害者のモデルといわれる「和恵」の上司が登場する。

小説「グロテスク」によると、この上司は東大経済学部卒で、男の手柄は潰し、女の手柄は横取りする悪癖があって、実際、和恵の論文をこの上司がちゃっかり流用したことがあると書かれている。

この小説で「和恵」の上司は一貫して冷たい性格に描かれている。

実際、東電OL殺人事件の被害者女性の上司は、2011年の福島第一原発事故当時の東電会長だった勝俣恒久(東大経済学部卒)だった。

小説「グロテスク」が出版されたのは2003年であり、福島第一原発事故(2011年)よりも前に出版されている。

著者が実際に「上司=勝俣氏」と想定してこの小説を書いたのかは分からない。ただ、福島第一原発事故よりも前に出版された小説「グロテスク」に東電会長と思しき人物がさらりと登場するのが偶然というか…不気味である。

 

小説「グロテスク」とQ女子高

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小説「グロテスク」とQ女子高