(読書感想)スージー鈴木著「サザンオールススターズ1978-1985」:アルバム「人気者で行こう」と「Kamakura」

スージー鈴木著「サザンオールススターズ1978-1985」という本を読んで、サザンオールスターズの「人気者で行こう」「Kamakura」を久しぶりに聴き直している。


スージー鈴木「サザンオールスターズ1978-1985」(新潮新書)

 

「人気者で行こう」「Kamakura」も素晴らしい作品だ。

「人気者で行こう」の発売が1984年、「Kamakura」の発売が1985年。どちらも40年前の作品だけれども色褪せない。

 

初期サザンオールスターズの絶頂期

今振り返っても、サザンオールスターズの「人気者で行こう」「Kamakura」は、桑田佳祐という天才の「才」が迸ったピークの作品だと思う。

もちろん、これ以降の作品にも素晴らしいものがたくさんあるけれども、この頃の桑田佳祐が発表した作品の密度がおそろしいほどに高い。

なにせ「人気者で行こう」が発表されてから、わずか1年2か月後に2枚組アルバム「Kamakura」が発表されているのだ。

当時のミュージシャンは1年に1枚、アルバムを発表するのが慣習だったというのも大きいが。

 

人気者で行こう

1984年発表の「人気者で行こう」は密度の濃い素晴らしいアルバムだ。

印象に残っている曲を抜粋してみる。

 

よどみ萎え枯れて舞え

この曲、個人的にはかなり好き。

ベースとドラムの絡みが好き。そういえば、サザンにはこの手のR&B調の曲は多くない。そういう意味で貴重な曲である。

電子ドラムの音がこの時代を象徴している。このドラムの音を聞くと「80年代」を感じる。

80年代初頭から半ばにかけて電子ドラムが流行った。「人気者で行こう」「Kamakura」には電子ドラムを使った曲が収録されている。

この曲が終わるとすぐに次の曲(ミス ブランニューデイ)が始まるのだった。

 

ミス ブランニューデイ

言わずと知れた有名曲。イントロのフレーズが印象的

この曲も電子ドラムである。当時はサザンがこういう曲を演奏するのが意外だった。

あっという間の夢のTONIGHT

この曲も電子ドラム。軽い。この時代っぽい。

間奏の短いサックスソロとベースラインが好き。

 

シャボン

演歌歌手の長山洋子がアイドル歌手時代、この曲をカバーしていたと思う。

 

「海」は、数多くあるサザンのバラードのなかで3本の指に入ると思う名曲だと個人的に思っている。

シングルA面の曲ではないため知名度が高くないのが残念。

この曲はもともと「ジューシーフルーツ」に提供した曲である。

女性が主人公の歌で、せつない女心を唄った歌。歌詞が良い。

桑田佳祐作「女性が主人公の曲」が私は好きだ。

ベースのフレーズも良いし、サックスソロもいいし、後に続くギターソロのフレーズもいい。どの楽器も出過ぎず、それでいてどの楽器も良い仕事をしている。バランスが取れた素晴らしいアレンジだと思う。

 

夕方HOLD ON ME

桑田氏が得意な「英語に聞こえる日本語の歌」。

ホーンセクションが頑張っているので、豪華でもあり、ちょっと歌謡曲っぽくもある。

 

女のカッパ

けだるい。ジャズっぽい。この曲もホーンセクションの演奏が素敵。

 

祭りはラッパッパ

ファンク。桑田氏特有の歌詞とビートの絡み合いがたまらない。

曲全体で歌詞とフレーズが絡み合っている。脱帽。

 

Kamakura

1985年発売の「Kamakura」を、中学生だった私は狂ったように聴いていた。

私の高校受験は「Kamakura」とともに在る。

今聴き直してみると「Kamakura」「人気者で行こう」よりも完成度が低い曲もちらほらある(「サザンオールススターズ1978-1985」にその旨が指摘されている)。

スージー鈴木氏が言うように、1曲1曲の完成度の高さは「Kamakura」よりも「人気者で行こう」のほうが上だと思う。

「Kamakura」は、前作「人気者で行こう」からわずか1年2か月後に2枚組アルバムとして発表されたのだから、全曲の質を揃えるのは難しかったのかもしれない。

 

愛する人とのすれ違い

1回目の間奏のピアノソロ、2回目の間奏のキーボードソロが良い。後半、転調後にジャズ風アレンジとなる。

1枚目B面がこの曲で始まるのがぞくぞくする。たまらない。

中高年になってから改めてこの曲を聴くと、中学生のときはこの曲の良さを味わえていたのか?と思う。

愛する人とのすれ違い  → Happy birthday → Melody →  吉田拓郎の歌 → 鎌倉物語、と好きな曲が続く。

 

Happy birthday

中学生当時大好きだった曲。今聴くと、アレンジが80年代ぽくて軽い。

この曲も電子ドラム。キーボードのフレーズとブラスのアレンジが特徴的。

 

Melody

「名曲」であることは異論がないだろう。なんといっても「サビ」がしびれる。

 

吉田拓郎の歌

「お前の書いた歌は俺を悪くさせた」英語原文を日本語に翻訳したみたいなこのフレーズが印象的。

歌詞とは対照的に、この曲はホーンセクションがやけに華やかである。

歌詞を聞くと、「歌えぬお前に誰が酔う」など表現は辛らつながら吉田拓郎の稀有の才能を認めているのがよく分かる。「フォークソングのカス」と言いしながらも「フィーリングのボス」と称えている。

私には、稀有のミュージシャンである吉田拓郎の偉大さを桑田が称えて応援している曲に聞こえる。

 

鎌倉物語

なんとなく「夏をあきらめて」を彷彿させる。原由子氏の声が優しい。

 

まとめ

「人気者で行こう」が発売されてから今年で40年も経つのか。

光陰矢のごとしである。

1984年という年には数多くの名曲が発表されている。ヴァン・ヘイレン『1984』、マドンナ『Like A Virgin』、ワム!『Make It Big』、ブルース・スプリングスティーン『Born In The U.S.A.』などなど。

数多の名曲が世に送り出された頃に発表されたのが「人気者で行こう」「Kamakura」である。

 

スージー鈴木著「サザンオールススターズ1978-1985」には、著者(スージー鈴木氏)が当時レコードからカセットに曲をダビングして聴いていたと書いてあったのが懐かしかった。その頃の若者はみんなそうしていた。

高価だという理由でSONY製ウォークマンは買えず、アイワ製のカセットプレーヤーを買って使っていたことを思い出した。

スージー鈴木氏より少し年下の私は、初期サザンの活動期(1978-1985年)に小学生から中学生であり、桑田佳祐がソロ活動期(1986-1988年)の時期に高校生だった。

小学生から高校生までという人生で最も多感な時期を、サザンオールスターズの初期ピーク期と桑田佳祐のソロ活動期とともに過ごせたのは、私にとって非常に幸運だった、と今振り返って思う。