(読書感想)萩原健一 傷だらけの天才(文藝別冊)
「萩原健一 傷だらけの天才(文藝別冊)」を読んだ。
萩原健一 傷だらけの天才(文藝別冊)
俳優・監督・演出家・プロデューサーとの対談(インタビュー)が多く収録されている。
良著である。
以前取り上げた本「ショーケン・天才と狂気」とは異なり、この本は、一個人から見たショーケンではなく、多くの関係者の「ショーケン」像がそれぞれの対談から浮かび上がる。
この本の冒頭で、ショーケンの俳優活動の軌跡を春日太一氏がまとめている。
春日太一氏の解説はよくまとまっていて分かりやすい。巻末にショーケンが出演した映画・ドラマの活動軌跡がまとめられているのも良い。
ショーケンの後期の代表作の一つとして春日太一氏は『元禄繚乱』を挙げる。
『元禄繚乱』でショーケンは徳川幕府第五代将軍・徳川綱吉を演じた。巷では『元禄繚乱』でのショーケンの演技がさほど取り上げられないが残念だ。
自伝『ショーケン』でショーケンは、演技にあまりにも熱が入り過ぎて自宅での演技練習がDVだと間違えられて警察に通報されたり、テンションがおかしくなって精神科通いする羽目になったりしたと述べている。
そういえば『元禄繚乱』を欠かさず見ていた私の父が「萩原(ショーケン)の綱吉がとにかく気持ち悪い」といつも言っていた。
『元禄繚乱』でのショーケンの演技は、視聴者に不快感を持たせるほど印象に残る演技だったのだ。
90年代以降はテレビも映画も予算が少なくなっていき現場に余裕がなくなっていった。
その結果「現場で徹底的に討論して良い作品を作り上げていく」というショーケンの姿勢が現場で疎ましく感じられるようになったのだろう、と春日太一氏はいう。
奥山佳由氏も「若いスタッフはショーケンに遠慮して何も言えないから、ショーケンを起用できなかった」と述べている。
予算の減少による現場への影響は、テレビや映画などのエンタメ業界だけでなく、すべての業界に共通する問題である。
『太陽にほえろ』でショーケンと共演した竜雷太氏のショーケン評が暖かい。
竜雷太氏はショーケンと良好な関係を保っていた役者のひとりである。
竜雷太氏は「後半は『ショーケンらしく』という気持ちがショーケン自身を苦しめていたのではないか」という。
奥山佳由は『太陽にほえろ』までがショーケンの真骨頂だったと述べる。
「前半までのショーケンが良かった」という見解を持つ人は多い。
「ショーケンは最初から我々とまったく違っていた」・「ショーケンは歌手であって、俳優としての匂いがしない人」だと竜雷太氏はいう。
竜雷太氏によれば、ショーケンは歌手としては超有名人なので、新人俳優なのにショーケンはカワイ子ちゃんを助手席に乗せてスポーツカーで現場入りしたりした。そういう感覚が、当時の若手役者とは全く違っていた。
千葉真一氏も別の本(ショーケン・天才と狂気)で竜雷太氏と同様のショーケン観を述べている。
俳優と歌手では求められるものが違う。
「現場のみんなでひとつの作品を作り上げていく」のが俳優で、「自分でひとつの作品を作り上げる」のが歌手、ということだ。