(読書感想)中学受験の失敗学(著者:瀬川松子)
「中学受験の失敗学」では、中学受験界が冷静な目で分析されている。
中学受験の失敗学 志望校全滅には理由がある(瀬川松子・2008年・光文社新書)
この本「中学受験の失敗学」の初版から16年が経過しているが、書かれている内容はおおむね今の中学受験にも当てはまると思う。
中学受験界が論理的にかつ冷静な目で書かれているので好感が持てる。
この本を読んでいて同意する点が多かった。
私はもともと中学受験懐疑派なので、この本「中学受験の失敗学」には納得する部分が多かった。
この本は、いわゆるインテリ層で「自宅リビングで算数の問題を家族みんなで解き合う」みたいなプレジデント・ファミリーに出てくるようなご家庭には不要だ(著者もそう述べている)。
「中学受験の入試問題なんて自分では到底、わが子には教えられない」という保護者が受験機関の餌食になりやすい、といえる。
受験機関漬けの泥沼にはまってしまい親子ともども中学受験を後悔しないためにも、中学受験界に足を踏み入れる前にこの本を読んでおくことをおすすめする。
受験機関漬けのこどもたち
この本には事例として、塾に通っただけでは成績が上がらず、塾がない日に個別指導に通う子どものケースが紹介されている。
こういう子どものスケジュールは毎日、塾と個別指導でびっしりである。
保護者が塾や家庭教師派遣会社の営業トークに載せられ、受験機関漬けの生活を送る子どもたちが少なくない。
中学生や高校生になれば親に反抗して受験機関漬けの生活を抜け出そうと抵抗するだろう(著者もこの本でそう指摘する)。けれども、小学生では自我がまだ十分に発達しておらず、親に言われたまま通塾を続ける子も少なくない。
塾に通うならば、塾で習った学習内容を振り返る(復習)時間が必要だ。けれども受験機関漬けだと復習する時間がなく、学習内容が定着しないままになると著者は言う。その通りだと思う。
線分図や面積図などの特有の計算方法を用いる中学受験の特徴についても「中学になれば方程式で解けるものを、特有の計算方法をわざわざ使って解くのは…」という著者の本音も注釈に書かれている(私もそう思う)。
この本に載っているのは極端なケースかもしれない。
でも、これほどでなくても、受験機関漬けに近い生活を送る中学受験生は多数存在する。
私が中学受験懐疑派なのは、この過密スケジュールによって子どもたちが本来、小学校高学年のこどもとして体験できることが減ってしまうからだ。
「金儲け主義」の受験機関
この本に書かれている家庭教師派遣会社の内情も参考になった。
著者は家庭教師をやっていたため、家庭教師派遣会社について詳しい。
営業は成功報酬制をとるのが基本のため、受講する講座数をできる限り増やして営業成績を伸ばそうとする。「強引な営業を置いている」家庭教師派遣会社は気をつけたほうが良いのだ。
「何でもあり」の私学
私学は「何でもあり」だと思った。
授業料その他なんでも援助するという条件を提示して、成績優秀な生徒を入学させて難関大学の合格者数を増やしたいと画策する私学がある。
難関大学の合格者数を増やすためには「何でもあり」なのだ。
そうなると損をするのは「通常の入学金授業料を払って入学するその他大勢の生徒」である。
公立中高一貫校にはデメリットもある
私学がダメならば、公立中高一貫校なら良いかというと、そうとも言い切れない。
「お金がかからないという理由で公立中高一貫校を選んで合格しても、入学後は授業が速いペースで進むので授業についていくのが大変で通塾する生徒が多く、しかも海外修学旅行の積立金の負担が重いとこぼす保護者」がこの本に紹介されている。
私が実際に公立中高一貫校を見学して感じたこと(都立中高一貫校を見学した感想【2024年】)とまったく同じことがこの本に書かれている。16年前から状況は変わっていないのだ。
残念ながら「公立中高一貫校に行けば救われる」とは言い切れない。
最後に
「中学受験の失敗学」が出版された2008年よりも、中学受験塾に通い始める年齢の低年齢化が進んでいる。
少子化のせいで、ひとりのこどもから多くのお金を取ろうとする方向に進んでいる。
でも「中学受験せずに公立中学に進学すればよい」とも言い切れないのがつらいところだ。