(読書感想)ショーケン・天才と狂気(大下英治著・祥伝社)

2019年に俳優・萩原健一(ショーケン)が亡くなってから、ショーケン関連の本が相次いで出版されている。

桃井かおりの表現を借りれば、ショーケンは「いけない魅力にあふれた人」だ。

『ショーケン・天才と狂気(大下英治著・祥伝社)』は、ショーケン(萩原健一)と共演した多くの共演者・プロデューサー(以下、登場人物は敬称略)の証言が掲載されている。

力作である。


ショーケン・天才と狂気(大下英治著・祥伝社)

 

著者・大下英治はこの本の冒頭でショーケンのファンだと公言している。

この本の随所に書かれているが、ショーケンは「男が憧れる男」である。

 

ショーケンは喧嘩早いが、腑に落ちれば大人しくなる。

正直でずるくないところが、男性がショーケンを支持する理由だろう。

 

役にのめり込み、自分で工夫し、アイデアをどんどん提案していく。

ショーケンという人は、俳優や歌手以外の職業に就くのは難しかったのだろう。

今はこういうタイプの俳優はいない。

 

ショーケンは徒党を組んでお山の大将タイプではない。

ひとり我が道を行く孤高の天才肌である。

私もそういうところにショーケンの魅力を感じる。

亡くなった瀬戸内寂聴さんもそうだったのではないだろうか。

 

以前ここで取り上げた「ショーケン」はショーケンによる自伝である((読書感想)ショーケン(著者:萩原健一))

一方、この本では、掲載されている共演者・プロデューサーのショーケン観から、その人の「映画観」・「俳優観」がにじみ出るのが面白い。

ショーケンそのものだけでなく、ショーケンが出演した作品での監督や共演者のエピソードが興味深い。

 

「約束」で共演した岸惠子と三國連太郎

「約束」はショーケン初期の傑作と評されている。

主演は岸惠子。

自伝「ショーケン」でも語られているが、三國連太郎との出会いはショーケンの俳優観を決定づけた。

「俳優というものは脚本通りにやればいいのではなく、自分なりに考えて工夫することが大事」という教えをショーケンは三國から受けた。

三國と岸のエピソードが貴重。

「約束」の斎藤監督が演技アドバイスしないことに不満を持った岸を三國が穏やかになだめたエピソードが微笑ましい。

 

「いつかギラギラした日」で共演した千葉真一

今は亡き千葉真一のショーケン評が貴重だ。

千葉真一は「ショーケンは最後まで歌手だった。俳優になり切れなかったのではないか」と言う。

映画育ちの俳優は「大人」で周りに配慮する、コワモテでも周りへの気遣いができる人たちである。

岩城滉一がショーケンを「本物の不良じゃない」と評したのは、ショーケンが組織人ではないからだと思う。

 

『極道の妻たち「三代目姐」』で共演した三田佳子

ショーケンは現場でいつも共演者と対立していたわけではない。

怖い人だと思っていたが「ショーケンとは演技がしやすかった」と語る共演者もいる。

三田佳子は映画『極道の妻たち「三代目姐』の撮影中、一度もショーケンとは衝突しなかったと語る。

三田佳子は、芝居をするときは芝居に集中するタイプだ。そういうタイプの俳優はショーケンとはウマが合った。

 

プロデューサー奥山和由の証言

この本の随所に出てくるプロデューサー奥山和由の証言が印象的だ。

奥山によれば「いくら脳ミソにたたき込もうともしても、ショーケンにはインテリの血がなかった」そうだ。

そこが松田優作との違いだと奥山は言う。

松田優作は地元の進学校に進学しており、そこでインテリの空気を体感したのだろう。

対照的に「ショーケンはチンピラのまま世の中に出てきてそのまま成功してしまったので、インテリに転向しようともできなかったのだ」と奥山は語る。

 

けれども、インテリ臭がしないところがショーケンの魅力で、瀬戸内寂聴はショーケンの不良性を愛していた。

その一方で、インテリ臭がしないところが、ショーケンを千葉真一が「最後まで俳優になり切れなかった」と評し、岩城滉一が「本当の不良ではない」と評した理由だと感じた。

もっとも、学がないことをショーケン自身も気にしていたのは確かで、字を書くのが苦手だったショーケンはそれを克服するために、大人になってから漢字を練習し、作家である瀬戸内に教えを受けて小説を書いた。

 

追悼で、桃井はショーケンを評した言葉「可愛くていけない魅力的な生き物」と評した。まさにその通りだと思う。

「可愛くていけない魅力的な生き物」ショーケン。

そんなショーケンを取り巻く人々の証言から、ショーケンの人となりが浮かんでくるのがこの本である。

 

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