(読書感想)とんがって本気(著者:加賀まりこ)

「とんがって本気」は、2004年出版の女優・加賀まりこ(以下敬称略)の自伝である。

この本の表紙の写真は加賀まりこが20代後半の頃に写真家・立木義浩が撮影したものだ。

写真家・立木義浩とは家族ぐるみの付き合いで、当時は夏休みを立木ファミリーと過ごすのが常だったとのこと。

表紙の写真のほかにも、この本には20代の加賀まりこの写真がいくつか掲載されている。

20代の加賀まりこ、とにかく可愛らしくて素敵なのだ。

 

この本「とんがって本気」は、現在は「純情ババアになりました」というタイトルで文庫本化されている。

最近も「やすらぎの郷」などのドラマや映画に出演し、精力的に活動している加賀まりこ。

「とんがって本気」には加賀まりこの生い立ちや今までの恋愛、そして仕事や生活に対する考え方が書かれている。

 

印象的なエピソードが満載

「とんがって本気」には加賀まりこらしい、ちょっとしたエピソードが満載だ。

ちょっとした話がそれぞれ印象的なので、どの話が印象に残ったのかすべて数えきれない。

代表的なものをピックアップした。

 

生い立ち

加賀まりこは3人きょうだいの末っ子として生まれた。

この本の中で本人もそう語っているように、大人に囲まれて育ったのでおしゃまな子に成長した。

加賀まりこの父親は大映のプロデューサーだった。

加賀まりこは父親が40歳のときに生まれた。

年が離れた姉(13歳年上)や兄(11歳年上)が小さい頃は、父親が第一線で仕事をしていて家にほとんどいなかった。

けれども、まりこが物心つくころには激務だった父親の仕事もひと段落していた。

だから父親との触れ合いが一番多かったのはまりこだった。

(感想)昔は55歳定年が当たり前だったことからすれば、当時は50歳に近づく頃には誰もが定年を意識しただろう。

 

17歳の頃

通学のため神楽坂を毎日歩いていた加賀まりこを、若き日の寺山修司と篠田正浩が見初めて声をかけたのがきっかけで映画に出ることになった。

(感想)通学途中の様子を寺山修司と篠田正浩のふたりに見初められるなんて、女優として運命めいたものを感じる。

 

おしゃまな小学生

大学に忍び込んで、姉の友人におやつをおごってもらう

加賀まりこの13歳年上の姉は男女同権を主張する、当時は先進的な人だった。

まりこが小学生の頃、まりこの姉は、まだ女子学生が少なかった明治大学に通っていた。

当時、高倉健が同じ学部に通っていた。

御茶の水にある公立小学校に電車通学していたまりこは、学校帰りにあんみつやソフトクリームが食べたくなると、ランドセル姿で明治大学の校舎に寄り道し、姉の友人を見つけてはあんみつやソフトクリームをおごってもらっていた。

(感想)おしゃまな性格は、小さい頃から長年の経験で培われたのだのだろう。

 

小学生の頃、新宿・伊勢丹デパートの遠藤波津子美容室にひとりで通う

加賀まりこは小学生の頃から、自宅がある神楽坂から電車に乗って、新宿・伊勢丹デパートにあった遠藤波津子美容室にひとりで通っていた。

神楽坂にある美容室は芸者さん向けで古臭いイメージがあったので、雑誌に掲載されていた遠藤波津子美容室にわざわざ通っていたのだ。

後年、二代目尾上松緑の奥様から、小学生のまりこがひとりで美容室に来ているのをよく見かけたと聞かされた。

「こんなに小さいお嬢ちゃんがひとりで美容室に来ているなんて、と思ったのよ」と言われ、驚いたとのこと。

(感想)当時最先端といわれた美容室に小学生ひとりで通うなんて自立しているというか、一本筋が通っているところがステキだ。

 

20歳でのパリ旅行

加賀まりこが高校生でデビューして4年目。

女優を辞めるつもりでまりこはパリ旅行をした。

女優を3年間続けている間は休む間もなく仕事をした。

その結果、20歳の女の子が持つには似つかわしくないほどのお金が溜まったので、それを全部使い果たすつもりでパリ旅行をした。

60年前の日本の女優は、男性の横でニコニコと微笑んでいるイメージだった。

日本の女優とは対照的に、フランスの女優が男性と堂々と論を交わしているのを見て、思うところがあったようだ。

パリ滞在中、60年前の値段で600万円の毛皮のコートをオートクチュールで作ったエピソードが掲載されている。

(感想)当時の日本人でも簡単に出来ないようなことを20歳の日本人の女の子が簡単にやってしまう「思いきりの良さ」が加賀まりこの魅力だと改めて思う。

 

恋多き女

ここまで可愛かったら周りの男性が放っておかないだろう。

この本には恋愛相手の話がいくつも登場する。

とはいえ、加賀まりこ本人は「有名人だからというフレームをとりはずすこと」に苦労すると言う。

最初の結婚相手が4回目の結婚だということを挙式直前に知ったそうだ。

そのことはあまり気にならなかったそうだが、挙式当日に結婚相手の「恋人」が突然現れ、日頃親しくしていた浅丘ルリ子・石坂浩二夫妻がその恋人をなだめていたというエピソードに驚く。

そのことを挙式の直後にマネージャーから知らされて、複雑な思いで身内だけの会食に向かった。

数年後、加賀まりこは結婚というものにくたびれてしまい離婚したそうだ。

(感想)なんだかドラマチックというか、波乱万丈の人生だ。

 

安井かずみとの交流

20代から30代前半までの躍動感溢れる思い出

この本に書かれているように、加賀まりこは20代から30代半ばの間、安井かずみが加藤和彦と結婚するまでの間、安井かずみとは本当に仲が良い友人だった。

この本に書かれている、加賀まりこが安井かずみと最初に会ったときのエピソードが印象的だ。

加賀まりこが安井かずみとはじめて会ったのは、加賀まりこが撮影で軽井沢で馬に乗っている最中、安井かずみがオープンカー(当時としては珍しい)を運転しているのを見かけたときだ。

加賀まりこは安井かずみのことを「こんな女、今までみたことがなかった」と思った。

そして、初めて会ったその日に加賀まりこは泊っていたホテルの部屋に安井かずみを誘った。

当時ふたりとも、文化人が多く住んでいた川口アパートメントに住んでいた。

(感想)
当時の日本の若い女性が行かないような海外にふたりで出かけたというエピソードがカッコよくて羨ましい。

安井かずみも加賀まりこも自分で稼いだお金で海外旅行をしていたのだから、どう使おうと文句を言われる筋合いはない。当人たちもそういう気持ちだっただろう。

安井かずみとの思い出について加賀まりこがどう回想しているのかを知りたいと思い、この本を手に取る人も多いだろう。

この本で安井かずみとの思い出を語る場面は躍動感に溢れている。

加賀まりこ本人にとって忘れがたい思い出なのだろう。

それにしても、50年以上前にこんなゴージャスな生活をしていた20代女性が居たことに驚く。

加賀まりこには「宵越しの金は持たない」という江戸っ子気質のキップの良さを感じる。

 

加藤和彦との結婚後

一方で、安井かずみが加藤和彦と結婚した後、加賀まりこは安井かずみと疎遠になっていく。

安井かずみと加藤和彦の結婚生活に対する加賀まりこの印象は、

「もっと素朴を良しとするところに還ってきなよ」

という加賀まりこの言葉に集約されると思う。

わりと好意的に見ていたほかの女性の友人とは違い、彼らの結婚生活に対する加賀まりこの感想は、後述する「安井かずみがいた時代」に登場する友人のなかで唯一厳しい見方だった吉田拓郎の感想に近い。

誰かと会う前には何日も前から食事に気を使いエステに通い、ふだんは、雇ったメイドにヨーロッパ風のメイド服を着せ、朝からパリッと着飾るような、彼らの結婚生活について加賀まりこは「虚構を演じている」ように見えた。

けれども、当時の加賀まりこは彼らの結婚生活について口出しすることなく遠くで見守っていた。

それは「意地」もあったかもしれないと加賀まりこは述懐している。

(感想)彼らのことをあえてそっとしておいたところに加賀まりこの優しさを感じた。

 

安井かずみがいた時代

以前、わたしは、安井かずみの生涯をたどる本「安井かずみがいた時代」のレビューを書いた。

(読書感想)安井かずみがいた時代(著者:島崎今日子)

「安井かずみがいた時代」には安井かずみの友人や妹へのインタビューが掲載されている。

けれども、安井かずみが加藤和彦と結婚するまで密に過ごした友人である加賀まりこへのインタビューは「安井かずみがいた時代」に掲載されていない。

「安井かずみがいた時代」を読んだとき、加賀まりこへのインタビューがないのを不思議に思った。

けれども、この本「とんがって本気」を読んでみて、「安井かずみがいた時代」に加賀まりこへのインタビューがなかったのは、「安井かずみがいた時代」が出版される2013年より10年近く前(2004年)に安井かずみへの思いが綴ったこの本を出版していたから、安井かずみへの思いをあらためて語る必要はないからだろう。

 

未婚の母騒動

加賀まりこの半生で触れざるを得ないのは「未婚の母騒動」だ。

加賀まりこの未婚の母騒動はわたしがまだ小さい頃に起きたので、わたしはこの騒動をリアルタイムでは知らない。

母に聞くと、この騒動は当時かなり話題になったそうだ。

今は「未婚の母」というのは珍しくない。

けれども当時はまるで犯罪を犯しているかのような扱いだったのは想像に難くない。

前置胎盤による帝王切開で早産で生まれた女の赤ちゃんは残念なことに生後7時間で亡くなった。

前置胎盤だったから出血量も多かっただろう。

帝王切開だから産後すぐに歩くのはかなり大変だったに違いない。

わたしは、この亡くなった赤ちゃんとほぼ同世代なので、今ならば医療の力で助かったかもしれないと思うと、仕方がないことかもしれないがやり切れない思いがする。

この「とんがって本気」には、出産から5日後、真夜中にこっそりと病院を抜け出し、重い体を引きずりながら歩き、やっとのことでタクシーを拾って川口アパートメントに帰った様子がリアルに描かれている。

当時住んでいたマンションには記者がはりこんでいた。

ゆえに、安井かずみやマネージャーが川口アパートメントの空き室を借り、傷が癒えるまで当分そこで暮らせるよう手配してくれたのだ。

未婚の母騒動に対して加賀まりこは淡々と語る。

それがかえって哀しい。

 

とんがって本気

著者:加賀まりこ
初版:2004年
新潮社

 

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