(読書感想)ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒(著者:島崎今日子)
今日紹介する本は『ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒(著者:島崎今日子/文藝春秋/2023年)』。
ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒(著者:島崎今日子/文藝春秋/2023年)
表紙の沢田研二(以下登場人物は軽省略)の写真が目を引く。
400ページに近い大作である。
この本は、著者が週刊文春に連載していたものに新たに取材したものを加えて大幅に加筆したもので、沢田研二のデビュー前後から90年代までを中心に書かれている。
沢田研二というと「デビュー当時からの長年の大ファン」という人が世の中にたくさんいる。
「勝手にしやがれ」のヒット当時、私は小学校低学年で、その当時の沢田研二は既婚で20代後半の「大人の男性」だった。
当時は「勝手にしやがれ」の振り付けに倣い、小学生はみんな、学校で校帽を投げ飛ばした。
小学生の私にとって沢田研二はアイドル的な存在ではなく、カリスマ性を備えた大人の男性だった。
最初の結婚のとき比叡山にファンを読んで結婚相手のお披露目をしたという話には驚いた、当時はファンとの関係もアットホームだったのだ。
内田裕也と沢田研二
この本には、沢田研二と仕事で関わった男性の証言が数えきれないほど掲載されている。
内田裕也、久世光彦、加瀬邦彦、ショーケン、阿久悠、大野克夫…。
すべてを紹介できないので、ぜひ、この本を読んでみてほしい。
沢田研二という人は白いキャンバスみたいな人だ。それが逆に周囲の創造意欲を掻き立てるのだろう。
タイガース時代のことだけでなく、ソロとして歌謡曲の時代の記録も印象深い。
なかでも、タイガースの前身のファニーズの時代に内田裕也が沢田研二を発掘したとこの本を読んではじめて知り、長年の謎が解けた。
昔、テレビ番組でやっていた「歌手あてクイズ」で「ロックンロールなゆうやちゃん 短気は損気 ゆうやちゃん」という沢田研二の「湯屋さん」という曲が流れたとき(ゆうやちゃん=内田裕也)、「こんな唄を歌える人はひとりしかいませんよね」と司会者が言った。
なぜ沢田研二が内田裕也のことを唄うのか?と疑問に思っていたが、沢田研二にとって内田裕也は「自分を見出してくれた恩人」である。
「沢田研二を見出したこと」は内田裕也の最大の功績かもしれない。
樹木希林は『内田裕也は沢田研二のことを「神に選ばれた人間だ」と語っていた』と話していた。
「沢田のことになると、自ずと内田の最も純粋で、良質な部分が迸るのだ」という著者の表現が心に残った。
デビュー当時の沢田研二を舞台で見たジャニー喜多川が「どこで見つけてきたのよ」と内田に悔しそうに話した、とこの本にはある。内田裕也はさぞかし鼻高々だったろう。
そして、大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』で坂本龍一が演じた役は本来、沢田研二にオファーがあったものだったとこの本を読んで初めて知った。映画撮影に際し、多忙な沢田研二がスケジュール調整を大島渚監督に打診したが断られたので、断念したとのこと。確かに、デビット・ボウイの共演相手ならば沢田研二が適任だったろう。
ショーケンとジュリー
ジュリー(沢田研二)といえばショーケン(萩原健一)を忘れることはできない。
この本には、ショーケンとジュリーが地下鉄丸ノ内線に乗って新宿ゴールデン街に行くビデオ(佐藤輝)が紹介されている。
今もyoutubeでこの動画を観ることができる。
赤坂見附駅でジュリーが地下鉄丸ノ内線に乗ると、あとからショーケンが駆け込んでくる。
赤いストライプのシャツを着たジュリーは美しく、ショーケンは肩幅があってスタイルが良い(中学時代に水泳部だったからか)。
ジュリーを見つけてほほ笑むショーケン。なんて可愛い顔で笑うんだろう。
座席に座って煙草をふかすふたり。
生真面目なジュリーと対照的に、小学生のような表情のショーケン。
モノクロの画像が、当時の地下鉄の薄暗くて殺風景な雰囲気にマッチしている。
ふたりは新宿三丁目駅で降りてゴールデン街まで歩き、ひとつの店に入る。
隣に座った女性がジュリーの煙草の火をつけた。
この女性はどんな気持ちだったのだろうか。
ショーケン24歳、ジュリー26歳の姿である。
若いわ。
このとき、小さな店の前にファンが数百人押しかけて店から出れなくなったため、誰が誰だか分からないようにバーッと逃げようと決めて、一斉に店から逃げ出したというエピソードが壮絶だ。
感想
この本では、沢田研二と一緒に仕事をした男たちとの関係をBL(ボーイズラブ)に見立てた表現がある。
正直この点だけは違和感があった。
若い頃の沢田研二は女性よりも艶っぽくて男性でもドキッとする人が多かったのは確かだ。
うちの子たちも、この本の表紙の沢田研二を見て女性だと思ったそうだ。
けれども私は、小さい頃から沢田研二のことを「女性っぽい」と思ったことは一度もない。
若い頃の沢田研二は妖艶で、化粧をし、きらびやかな衣装を着て唄っていたけれど「ひとりの大人の男性」にしか私には見えなかった。沢田研二という人は、内面は男性性が強いだからだと思う。
この本にも書かれているが、沢田研二は「外見は女性っぽくても中身は男性的」である。
そして当時の沢田研二は性別を超越していた感があった。
伝説的な歌手の多くがなぜか短命なのだが、沢田研二が75歳を超えた今も歌い続けていること自体が奇跡だ。
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