(読書感想)待機児童対策・その5(企業主導型保育所)

今回の記事は

(読書感想)待機児童対策・その1(同意できない点)

(読書感想)待機児童対策・その2(同意できる点)

(読書感想)待機児童対策・その3(公立認可保育所は特養みたいな位置づけになるのか)

(読書感想)待機児童対策・その4(認可保育所が利用者を選べるほうがよいか)

の続きである。

 

この本「待機児童対策」はあまりにもツッコミどころ満載なので、ツッコミどころを1つの記事におさめきれない。
今回の記事もツッコミどころについてである。

今回の記事のテーマは「企業主導型保育所」である。

今回でとりあえずこのシリーズの最終回とする。

こんなにツッコミどころ満載の本を出版してしまって、果たして編者は良かったのだろうか?と少々心配になる。

 

そもそも企業主導型保育所って何?

最近、たまに新聞の折り込み広告に保育園の園児募集のチラシが入っていることがある。

よく見ると、企業主導型保育所の園児募集のチラシである。

こんなところに保育所があったっけ?という場所に企業主導型保育所がポツポツ出来始めている。

 

運良く最初から認可保育所に入所できたご家庭は、企業主導型保育所について何も知らないかもしれない。

企業主導型保育所など知らずに認可保育所に通えているなら幸せだ。企業主導型保育所まで足を伸ばして保育所を探す必要がなかった人なのだから。

企業主導型保育所に子どもを通わせている人は、認可保育所に入所できなかった人が多いのだろう。

 

私も、企業主導型保育所について良く知らなかったので今回調べてみることにした。

以下、企業主導型保育所の概要について簡単にまとめた。

 

企業主導型保育所の概要

・企業主導型保育所:内閣府の主導で2016年に始まった保育所

・設立や利用者の選考に関しては自治体(市区町村)は関与しない。設立時の審査は公益財団法人児童育成協会が行っている

・保育士の配置基準は少なくとも5割で良い(現状)→認可保育所は10割

・企業の従業員向けの保育所であるが、企業の従業員でなくても利用できる

 

企業主導型保育所の現状

大幅な定員割れが起こっている保育所が多い
企業主導型保育所、定員半数割れ4割 会計検査院調べ
企業主導型保育所、定員の40%に空き 内閣府が全1420施設を調査

審査が甘い
企業型保育事業 評価点5割満たず委託 内閣府、拙速浮き彫り

補助金の不正受給などの問題が発生している
企業主導型保育所の助成金詐欺 「これからは保育。絶対もうかる。100件以上つくる」容疑者は不動産業から参入

 

企業主導型保育所のデメリット

保育所の存在があまりにも知られていない

我が家の近所にある企業主導型保育所は入居しているビルに看板ひとつ出ていない。新聞の折り込みチラシではじめて、家の近くに企業主導型保育所があることに気付いた。

企業主導型保育所は自治体のホームページにもまったく掲載されていない場合がある。

自宅近くに企業主導型保育所があるかどうかを調べる場合、民間のウェブサイトで検索するしかない。

企業主導型保育所の一覧を掲載している自治体もあるけれども、我が家の自治体では、企業主導型保育所の一覧は自治体のホームページには一切掲載されていない。

企業主導型保育所は自治体が関与せずに設立されるからだ。

企業主導型保育所が自治体のホームページに掲載されないのならば、自ら積極的に宣伝しない限り、入園児を集めるのは難しいだろう。

 

制度が浸透していない

そもそも、企業主導型保育所という制度自体が知られていない

企業主導型保育所では保育士は少なくとも5割配置しなければならないとされているから、それなりの質は保証されているのだろう。

企業主導型保育所という仕組みがあまりにも知られていないため、企業主導型保育所はふつうの認可外保育所と変わらない扱いになってしまっている。

制度が浸透していないのは、内閣府の仕事が足りないということだろう。

 

自治体との連携が良くない?

企業主導型保育所はそもそも、自治体(市区町村役所)とは無関係に設立されたものなので、自治体との連携が良くないようだ。

だから、ホームページに企業主導型保育所の一覧が掲載されていない自治体も多いし、企業主導型保育所に通う世帯には利用料の補助がない自治体もある。

「企業主導型保育所は我々が設置・監督したものではないから我々とは無関係ですよ。何か起きても我々は関知しません」という自治体の無言のメッセージのようにも思える。

それでいて、企業主導型保育所で何か問題が起きた場合、自治体がフォロー(尻ぬぐい)に奔走しなければならないのはたまったものではない。

世田谷区の企業主導型保育所で、保育士が一斉に退職する事件が昨年発生した(保育士が一斉退職…世田谷区の保育所が休園に 「企業主導型」の問題点とは )。この際も、利用者からの相談を区が受け付けたようである。

 

この本で感じた企業主導型保育所への違和感

この本「待機児童対策」では、企業主導型保育所について「画期的なアイデア」・「認可を自治体に任せず、(社)児童育成協会に審査を任せたのは画期的」であると絶賛している。この点について違和感がすごくある。

現状、企業主導型保育所はものすごい定員割れを起こしているのに、現時点では画期的なアイデアとはいえないと思う。

企業主導型保育所で本当に保育の質が保証できるのだろうか。かなり厳しいだろう。

民間のウェブサイトを調べると、少なくとも我が家の近くにある企業主導型保育所では保育士の割合は10割なんてところはない。

児童館で見かける企業主導型保育所の保育士たちの園児たちへの働きかけを見ていると?と思うことが多い。

投函される企業主導型保育所の園児募集のチラシを見ても、保護者が知りたい情報が掲載されていないものばかりで、企業主導型保育所は、保護者がどのような点を保育所に求めているかを理解していないように感じる。

 

それにしても、企業主導型保育所を批判するサイトがあると「見方が偏っている」「不安をあおるな」とかいう書き込みが必ずある。
それとともに、社会福祉法人保育所について「内部留保が多い」「役員報酬が不透明」「非課税」という批判が必ず展開されている。

たしかに社会福祉法人は家族経営のところが多く、上層部が親族で固められたりなどがあり、それが原因で人が退職したりする問題があると思う。正直に言うと、家族経営色が強い社会福祉法人保育園には私も子どもを預けたくないと思う。

 

だからといって、株式会社保育園でパワハラがないかといえば、そんなことは絶対にない。そんなことは民間企業に勤めた経験がある人なら誰でも分かる。

それに、社会福祉法人だって、将来の保育所の建替え費用を捻出するために、ある程度しっかりと内部留保を行う必要があるだろう。

 

公立の保育所だった建物を社会福祉法人が譲り受けて運営を始めるような場合、譲り受けた際に保育所の建物がすでに相当古くなっていて、早い段階で建て替えが必要な場合がある。

社会福祉法人の経理が不透明なのが嫌ならば、経理が透明な公立保育園を建てれば済む話だ。定員割れをするような企業主導型保育所がどんどん増えるよりも、公立保育園を建てたほうが保育の質は保証される。

すぐ潰れるような企業主導型保育所をたくさん建てるのは税金の無駄使いじゃないのか?

すぐ潰れるような保育所にお金をバラ巻くならば、家庭保育しているウチみたいな家庭に補助金を渡すほうがよっぽど節約になるし子どもの発達にも良いと思う。

それに、株式会社だから経理が透明ということは決してないのは、民間企業に勤めた経験があればよくわかるだろうに。

 

最後に一言

本書を読むと、このまま株式会社立保育園をどんどん増やしていく方向なのがわかる。

まず株式会社保育園の数を増やすことで、数の論理で圧力をかけて公立保育園や社会福祉法人立保育園を減らしていこうと思っているようである。

要は、保育園を老人ホーム業界と同じ流れにしたいのだろう。

 

ただ、保育園は老人ホームとは決定的に違う点がある。それは、保育園で過ごした影響が以後の人生数十年にわたって続くということだ。粗雑に作られた教育機関がいくつ増えたって、日本の子どもたちにとってちっとも良いことない。

粗雑に作られた保育園には関わらないほうがよい。

そこを騙されぬよう、保護者自身が知恵をつけるしかないのだ。

 

(読書感想)待機児童対策(まとめ)

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