(読書感想)待機児童対策・その3(公立認可保育所は特養みたいな位置づけになるのか)
今回の記事は
の続き。
待機児童対策(編者:八田達夫、日本評論社、2019年)という本を読んで感じた違和感を(読書感想)待機児童対策・その1(同意できない点)にまとめた。
書き忘れていたことを今回の記事にまとめる。
今回の記事のテーマは「公立認可保育所は特養(特別養護老人ホーム)みたいな位置づけになるのか」である。
高コストな公立認可保育所の役割
この本「待機児童対策」では、再三に渡って公立認可保育所が高コストであることが述べられている。
公立認可保育所が高コストである原因は、保育士が公務員であるため、年齢が上がるとともに保育士の給与が高くなるためだ。
「公立認可保育所の運営コストが高いのであれば、公務員保育士の高い給与に見合った、面倒な事例を引き受けるべき」という趣旨の記載がこの本に書かれている。
面倒な事例とは具体的に言うと、いわゆる障害児とか、いわゆるモンペ親であるとこの本にはっきりと書かれている。
もちろん、本書の編者の見解=国の見解ではないけれど、「面倒な事例=障害児やモンペ親」という見解を持つ人がこの国の保育施策に関わっていることは事実である。
公立認可保育所を特養にするつもりか
また「保育所も老人ホームと同様の競争原理が働いてしかるべき」という趣旨の記載が本書にはある。
今は無理でもいずれは「認可保育所は補助金で賄われているのだから、利用料は安いけれど最低基準の保育とし、一方、競争を勝ち抜いてきた株式会社のセレブ保育所は利用料が高い分、良い保育が提供される」ようになるのが理想だと、編者は考えているようだ。
認可保育所=貧乏人向け、株式会社立認可外セレブ保育所=金持ち向けにして、高いお金を払えば良い保育サービスが受けられるようにすれば、高所得者が働き続けられるからだ。
つまりは、この本の編者は公立認可保育所は特養(特別養護老人ホーム)と同様、救貧対策として利用したいと考えていると、私はこの本を読んで思った。
公立認可保育所を特養みたいな位置づけにすることは、当然、私は反対だ。
言葉が酷くて特養の関係者には大変申し訳ないけれど、編者はそのような見解をもっていることが本書を読むとわかる。
保育所で子どもが経験することはその後、子どもが成長した後何十年にもわたって影響するものだ。
東京都の特養(特別養護老人ホーム)について
特養といっても、介護が身近ではない人にはピンと来ないかもしれない。
そこで、ここでは現在の東京都における特養の位置づけについて簡単に説明する。
地方であれば、特養の位置づけは違うかもしれないので、あくまでも東京都とその周辺の話である。
現在、東京都では老人ホームに入居することは以前よりも難しくなくなってきている。
老人ホームに入居しやすくなった理由は、様々な民間企業が運営する老人ホームが増えたためである。
一昔前は老人ホームの数が少なく、特養(特別養護老人ホーム)という、自治体や社会福祉法人が運営する老人ホームへの入居希望者が100人以上、ということもざらにあった。
今でも特養(特別養護老人ホーム)への入居希望者は多い。けれども「何がなんでも特養に入りたい」という人ばかりでなくなってきているようだ。
民間企業が運営する老人ホームと違って、特養は補助金(税金)によって運営されている。このため、福祉の観点から、特養は身寄りがいない人・要介護度が高い人・より高齢の人等が優先して入居できるのが原則である。
この点で、審査により入居が認められる認可保育所と特養は共通している。
少なくとも東京都とその周辺では今は老人ホームの数が増えている。高いお金を出せば、ケアがより手厚い老人ホームに入居できる。
おそらく、保育所も老人ホームと同様、競争原理が働くようにして、より高いお金を出せば良い保育が受けられるようなシステムに保育所を移行させたいと編者は考えているようだ。
でも、何度も繰り返し言っておく。
保育所の利用者である子どもたちには、この先何十年、保育所で受けた教育がその後の人生に影響する。
国の将来を支える子どもたちが受ける就学前教育を競争原理だけに委ねて良いのか?良いわけがない。
教育や福祉は基本的に、経済活動と相容れないものだ。
(読書感想)待機児童対策(まとめ)
(読書感想)待機児童対策・その3(公立認可保育所は特養みたいな位置づけになるのか)