(読書感想)だれのための保育制度改革(編著:中山徹)
編著:中山徹
出版年:2019年
出版社:自治体研究社
ひとこと
この本「だれのための保育制度改革」は一言でいうと「まっとうな本」だ。
一貫して規制緩和・株式会社立保育所の活用を主張する待機児童対策(編者:八田達夫、日本評論社、2019年)とは対照的な本だ。
著者
この本「だれのための保育制度改革」の著者は奈良女子大学生活環境学部の中山徹教授(専門:自治体政策学)。
2019年10月からの幼保無償化に備えて、今年(2019年)に入ってから保育制度に関する本がいくつか出版されている。
以前、待機児童対策(編者:八田達夫、日本評論社、2019年)の読書感想を書いた。
(読書感想)待機児童対策・その3(公立認可保育所は特養みたいな位置づけになるのか)
(読書感想)待機児童対策・その4(認可保育所が利用者を選べるほうがよいか)
経済学者が編さんした「待機児童対策」と比べると、同じ学者という立場なのに待機児童に関する見解がまったく異なる。
印象に残ったところ
この本のあとがきの中から重要な個所を引用する。
「本来、保育や幼児教育に関する制度を変える場合、保育や幼児教育をどう充実させるのかということが目的でなけれればなりません。ところが現状では、保育所や幼稚園が本来の目的とは異なる目的で変えられています。ここに保育制度改革をめぐる最大の問題があります。」
まさにその通りだと思う。
保育制度改革が保育や教育の充実という観点からではなく、経済政策・雇用政策として行われていることに最大の問題がある。
なお、この本には幼稚園・認可保育所・認定こども園の数と割合が近年どのように変化しているのかなど、保育所や幼稚園の定員従足率の変化に関するデータが掲載されていて参考になる。
本書に同意するところ
規制緩和に頼らない方法で待機児童解消すべき
著者はこの本で幼稚園の認定こども園化や小規模保育事業A型(保育士率が100%)を活用することで、規制緩和によって保育の質を下げずに待機児童を解消すべきだと述べる。
そして、企業主導型保育事業のように、規制緩和により保育士の数が認可保育所よりも少なくても済む事業を拡大することは問題だとも著者は述べている。
本当にその通りだ。幼活と保活の両方をした経験からいうと、新設の保育園よりも幼稚園のほうが質が安定している。
質の低い企業主導型保育所を増やすより、保育の質が高い幼稚園での満3歳児保育の園児数を増やすほうがずっと良い。
この本は一貫して認可外保育所や企業主導型保育所を増やすことを提言する書籍「待機児童対策」とはきわめて対照的だ。
公立幼稚園の認定こども園化
全国的に見て公立幼稚園は定員充足率が低い(42.4%,2018年:本書より引用)。
東京都の公立幼稚園の充足率は68.2%(2018年、本書より引用)。
全国平均よりも高い。定員充足率が9割を超える公立幼稚園も存在する。
著者は、定員に空きがある公立幼稚園を認定こども園に変換することを本書で提案している。
個人的には、公立幼稚園を認定子ども園に転換せずとも、2歳児(満3歳児)の待機児童の受け皿としての機能を持たせてもよいと思う。
公立幼稚園は2年保育の園もまだ残っている。
まずは公立幼稚園への3年保育の導入・満3歳児保育の導入をするだけでも待機児童解消の手助けになるし、公立幼稚園を公立幼稚園のまま存続できると個人的には思う。