(読書感想)これからの日本、これからの教育(著者:前川喜平/寺脇研)

「これからの日本、これからの教育」は、元文部官僚の前川喜平氏と寺脇研氏の対談を収録した本だ。

この本では、著者であるご両人が文部官僚時代に扱ってきた教育に関する様々なトピックスについて議論がなされていて読みごたえがある。

一例をあげると、ゆとり教育・業者テスト追放・農業高校の復活・構造改革特区と株式会社立学校・高校無償化の問題点・通信制高校・LGBT・加計問題…などなど、多種多様な話題がこの本では取り上げられている。

この本を読むと、ここ30年ほどの教育行政の大まかな流れを把握できるとともに、文部科学省のスタンスが理解できる。

この本によれば、文科省というのは「時間をかけて審議会で議論をし、いったん決めたことは学習指導要領のように10年はそれでいく」というスタンスとのこと。

ということは、2022年からの新しい学習指導要領による小中学校の過密スケジュールはあと10年ほど続く可能性が高いということか。

このまま不登校のこどもが劇的に増え続けても、学校はとりあえずこの流れでいくのかと思うと気が滅入る。

 

高校無償化と学習権の保障

この本の対談では細かいデータを挙げて説明がなされている点が具体的でわかりやすい。

例えば、国全体で高校無償化の恩恵を受けられる家庭は8割・高校無償化の恩恵にあずかれない家庭が2割だそうだ。

著者であるご両人とも「高校無償化は親のためでなく、こども(高校生)の学習権を保障するために必要」という意見である。けれども、それを理解する政治家が少ないとのこと。

いろんな政策について毎度毎度、所得制限の話が出る。所得制限をするとなると、所得を証明する書類を提出し確認する手間が発生する。その手間に莫大な費用がかかるのにも関わらず、どうして毎度毎度、所得制限をしろという話が出るのだろうか。

 

農業高校の復活

また、1990年代初頭に農業高校をつぶして普通科に一本化しようという話もあったが、著者(寺脇氏)が奔走して研究した結果、農業高校を残すことになったところ、今では農業高校は復活を遂げ、農業をやりたい生徒が大勢入学するようになったという話が印象的だった。

 

この本を読んで思ったこと

著者であるご両人とも教育に関して「ひとりひとり(個)を大切に」という信条をお持ちの方である。

ところが、文科省にもいろいろな考えの方がいるようだ。「前例重視・規律重視」という人たちも文科省には居るそうだ。

「ご両人が担当者だった時に変えたことが、次の担当者になると元に戻ってしまった」話が多いと、この本を読んでいて気付いた。

「制度を変えても、次の担当者がもとに戻してしまう」という話はPTAとも共通する。

「担当が変わると元に戻る」のはお役所やPTAがいつまでも変わらない原因のひとつであることは間違いない。その反面、いろいろな考えの人がいるからこそ全体のバランスがとれるのかもしれない。

この本によれば、長い目で見ると、学習指導要領は厳しくなる・緩くなる・厳しくなる・緩くなる…の繰り返しだそうだ。

文科省だけでなく、一般社会でも「個を大切にする」方針の学校に共感する人がいる一方で、「決まりにしたがうことが大切(規律重視)」という方針の学校に共感する人も必ずいる。

のびのび系の幼稚園を選ぶ人もいれば、規律重視の幼稚園を選ぶ人もいる。

おおまかにいって「個を大切に」派が半数で「規律重視」派が半数といったところか。この割合はそうそう変わらない気がする。

私自身は「個を大切に」派だ。「規律重視」派の人は、決まりがないと秩序がなくなるのが心地悪いのだろうか。

 

これからの日本、これからの教育

逆風の中のヨットのように|ちくま新書|前川 喜平|webちくま (webchikuma.jp)

前川喜平/寺脇研
2017年
ちくま新書

 

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