(読書感想)学校って何だ!(著者:工藤勇一・鴻上尚史)

「学校ってなんだ!」は、演出家の鴻上尚史氏と、千代田区立麹町中学の校長だった工藤勇一氏との対談である。


学校ってなんだ!日本の教育はなぜ息苦しいのか(工藤勇一・鴻上尚史/講談社現代新書/初版2021年)

 

工藤氏は2024年現在、麹町中学の校長を退職し、横浜創英学園中高の校長をしている。

工藤氏が麹町中学の校長だったとき、定期テスト廃止・宿題廃止・ブラック校則の廃止などを改革を行ったことで知られている。

 

全員担任制は良いと思う

この本で紹介されている工藤氏の取り組みで良いと思ったのは「全員担任制」である。

「全員担任制」は大阪の大空小学校の校長だった木村泰子氏が実施していた。

学級担任制だと、担任による「学級王国」が成立して、担任がこどもを支配する教育が行われる傾向がある。そして、先生同士で競争意識が芽生えて、クラス間で給食の残飯量の少なさを競わせたり等が起きがちだ。

「全員担任制」にして、学年全体の先生でこどもたちを見てあげたほうが、こどもの気持ちにゆとりが生まれて良いと思う。

 

「カリスマ校長が辞めると元に戻ってしまう」という問題

この本で著者が言うように「高度経済成長時代の教育はもう通用しない」点に同感する。

「同調圧力」を排し、「子どもたちが自分で考えられるように」・「すべての子どもたちが社会でよりよく生きていけるような力を身につけられるように」工藤氏が取り組んだことが書かれている。

けれども公立の学校というのは、工藤氏のようなカリスマ校長が辞めると元に戻ってしまうのが常だ。PTAと同じだ。

大多数の校長は、定年後の再就職先に響かないよう前例踏襲で、カリスマ校長が改革したはずの学校も他校と似たり寄ったりの学校に戻る。

対談で『鴻上氏が「どうやったら工藤さんのような人ができるの?」・「どうやったら工藤さんのような改革を全国で広められるの?」と何度も工藤氏に問いかけた』と工藤氏はこの本で述べる。まさにその点がキモなのだ。

工藤氏は若い頃、管理職になるまでは周りの先生方のやり方を批判したりせず、じっと我慢していたと、別の媒体に書かれていたのを目にしたことがある。

けれども、今の若い人に「管理職になるまでの20年間は我慢しろ」といっても難しいだろう。

若い先生方のなかでも「学校を変えたい」と思うような感性が鋭い人は、管理職になるまで我慢できずに退職してしまう。

今の学校では、学校を改革したいと思うような人は校長にならない(なれない)し、そもそも、学校を改革したいと思うような志がある人は教員にならないと思う。

残念だが、学校を内側から改革できるカリスマ校長の登場を期待するのは果てしなく難しい、とこの本を読んで思った。

 

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