(読書感想)PTA不要論
(読書感想)PTA不要論
著者:黒川祥子
出版年:2018年
出版社:新潮社
PTAでよくある「困った問題」を事例を交えながら取り上げる良書。
具体例を織り交ぜつつ書かれているので「こういう話、あるある」と共感しながら読める。
日本にPTAが導入されるまでの経緯についても説明がある。
「PTA不要論」の概要
穏やかに「PTA不要」を論じる本
最近は「こんなふうにPTAを楽しんだらどう?」という論調の本がたくさん出版されている。
この本でも、その類の本の存在について触れている。
対照的に、この本「PTA不要論」では、とても穏やかに「PTA不要」だと結論づける。
この本は、堅苦しくPTA不要論を語る本ではない。
著者は、PTAにまつわる「困った事例」を分かりやすく具体例を挙げて説明し、「PTAがなくなっても保護者は何も困らない」から「PTAは要らない」と締めくくる。
確かにその通りだと思う。
恐怖の役員決め
著者が言うように、少し前までは「小さい子どもがいる若いお母さんの負担を考慮して、ベテランの母親が役員を引き受けてあげる」ような牧歌的な雰囲気が残っていた。
確かに、わが家の長男が小さい頃はまだそういうのんびりとした雰囲気が残っていた。
共働き世帯が増えた今は、有無を言わせず「くじ引きの強要」・「役員が決まるまで教室を封鎖して帰らせない」ようなブラック企業さながらの役員決めが横行している。
改めて考えると、そこまで強引に役員を選んでまでPTAを存続させる必要があるのだろうか。
やりたいひとができるときにやるボランティアを
PTAのお手伝いの定番「運動会」。
でも、学校側が独自にボランティアを募ればPTAが無くても足りるはずだ。
そのほうが「やりたいひとができるときにやる」ボランティアになる。
今は、コロナ禍で保護者参観を中止して運動会を行う学校が多い。
保護者参加がないと、運動会の保護者のお手伝いはなくなる。
内容さえ変えれば、運動会での保護者のお手伝いは要らない。
「PTA不要論」なぜPTAが不要なのか
この本「PTA不要論」では「PTAは不要である」理由を以下の通り挙げている。
改革が難しい:年度が変わると、お手伝いの内容が元に戻る
「PTAでお手伝いの内容を改革しても、次年度の担当が元に戻してしまい、改革が進まない」
これと同様のケースを私自身も経験したし、他の人が同様のケースで困っているのを実際見聞きした。
PTAは「毎年担当が変わる」という前提がある。
だから、誰かがお手伝いの内容を整理しても、次年度に別の担当者に代わったときに、以前のやり方を知る人がまた元に戻してしまう。
個人的には、PTAの「毎年担当が変わる」という前提が変わらない以上、改革は難しいと思う。
PTA役員人事の不透明性
この本は、PTAの問題点のひとつとして「役員人事がブラックボックス」であることを挙げる。
たとえば、推薦委員会を担当したときに「不倫の噂がある役員は不可」と言われた事例・PTAのOG・OBや町会関係者、地元有力者が「あの人はダメ」とPTA人事に介入する事例が書かれている。
実際その通りだ。
わたし自身、実際にPTA人事に関わったことはない。
けれども、幼稚園や保育園の父母会で、OB・OGが次年度役員決めで「あの人はダメ」と陰でダメ出ししているのを何度か聞いた。
PTAのOG・OBや町会関係者、地元有力者がPTA人事に介入してくるのは当たり前のことなのだろう。
PTA非加入世帯に対する嫌がらせ
「PTA不要論」を読んでいて、結構大きな問題だと思ったのが「PTA非加入世帯に対する嫌がらせ」だ。
「PTA不要論」によれば、PTA未加入世帯に対して「PTA非加入世帯の子どもには、卒業式で子どもが身に着けるコサージュを支給しない」・「PTA非加入世帯の子どもには、卒業式で紅白まんじゅうなどの記念品を渡さない」などの問題が起きている。
この本で述べられている通り、PTAというものは、学校に通うすべての子どもたちの教育を支えるためにある。
「PTA会費を払わないから」という理由で保護者のPTAへの加入・非加入で子どもに差をつけてはならない。
「PTA会費を払わない家庭がタダで記念品をもらうのはおかしい」というならば、卒業式でのコサージュや記念品を実費で払ってもらうか、コサージュや記念品を自前で用意してもらえば足りる。
でも、「非加入世帯の子どもには記念品をあげない」みたいな、いじめ同様の行為を大人が率先してやって良いのだろうか。
そもそも、PTA会費を払わないのは保護者であって、その子どもには何にも関係ない話だ。
PTA会費なんてものは本来、ボランティアの募金みたいなものだ。
加入・非加入問わず記念品をこどもたち全員に渡したら良いのにとも思う。
この本によれば、PTA非加入世帯への嫌がらせが訴訟にまで発展するケースが出始めている。
ちなみに、こういったPTA非加入世帯への嫌がらせについてPTAに対して訴訟が提起されて、PTA側が負ければ、訴訟費用はPTA会費から払われることになるのだ。
「女の労働はタダ」と「男尊女卑」問題
PTAのお手伝いが「女の労働はタダ」という前提のもとに成り立っているとこの本は説く。
代表的なものとして、ご奉仕の対価に見合わない「ベルマーク集め」が挙げられている。
ベルマーク運動に加入する企業は年々減っているのにも関わらず、前例主義の下、ベルマーク運動はなかなか廃止できないそうだ。
そして「PTA会長は男性で、副会長以下は全員女性」という構成のPTAは多い。
この点については以前、わたしもここで取り上げたことがある。
男性であるPTA会長は、校長や他校PTA関係者との打ち合わせや飲み会などの対外活動に従事し、女性である副会長以下は実働部隊、という、昔ながらの男尊女卑的考え方がいまも浸透しているのがPTAだ。
PTAには多くの利害関係者がぶら下がっている
この本で挙げられている、PTAの広報誌を印刷する印刷業者のように、PTAの仕事にぶら下がっている利害関係者はたくさんいる。
卒業式の記念品(紅白饅頭)やコサージュ、催し物で配布される景品ひとつとっても、大量発注してくれるPTAは有難いお客様だろう。
そういった業者だけではない。
PTA会長が地元議員や地方自治体の首長への踏み台になっている。
PTA会長などの要職を経験すると、地元行政から優遇されて、主任児童委員・スクールカウンセラー・青少年育成委員会/協議会の委員など、地域の世話役としてオイシイ役職が回ってくるそうだ。
PTAはそういった一部の人たちの利益供与の場になっている。
「PTAは任意加入」が周知徹底されていない
実は、PTAというのは任意加入である。
「PTAが任意加入」ということが周知徹底されておらず、巧妙に隠されているPTAは多い。
「PTA不要論」を読んだ感想
個人的には
個人的には、人事の不透明さ・男尊女卑的考え方が基調となっている点・未加入世帯への嫌がらせの点でPTAはデメリットが大きいと思った。
しかし、既得権益を有する多くの利害関係者がPTAにぶら下がっているのが事実だ。
だからPTAをいきなり解体するわけにはいかないだろう。
今後「PTAが任意加入」ということが少しずつ周知されていくうちにPTAへの加入率が徐々に下がり、「ゆでがえる」のようにPTAの影響力が自然に下がるのを待つしかないのだろう。
「PTA不要論」はどんな人におすすめか?
PTAについては以前このブログで取り上げたことがある。
「PTA不要論」にはわたし自身が経験したこと・わたしが見聞きしたことがすべて書いてある。
この本に書いてあることは、どこのPTAでも起きているということだろう。
こどもをはじめて小学校に通わせる親にとって、PTAの予備知識を知る上でこの本は役立つと思う。
「PTAは任意加入」が周知徹底されていない
この本に書かれているようにPTAは任意加入である。
つまりPTAに加入したくなければ加入しなくても良いのだ。
「PTAは任意加入」ということを知らない人はまだ多いだろう。
わが家の場合
わたし自身は、PTAというものは任意加入だと知っていた。
ただ、PTAへの加入を断ると、いろいろと面倒くさいことが生じる。
PTA未加入のままだと役員から加入を催促されるだろう。
PTA役員の立場からすると「加入催促」という余計な仕事が増える。
わたしは以前、保育園の父母会役員として、父母会未加入者に加入のお願いに回った経験がある。
だから未加入者に加入を依頼する役員の気持ちもよくわかる。
結局、長男が通った保育園や小学校では未加入を続ける人はいなかった。
わたしは今までは黙ってPTAに加入してきた。
けれども、この本を読んで、PTAをこのまま存続させるデメリットもよくわかった。
次男が小学校に入学したら、PTAへの加入を止めてみようか、なんて思っている。
PTAについて(まとめ)
役員決め
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PTA活動あれこれ
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