(読書感想)タテマエ抜きの教育論(著者:木村泰子×菊池省三)

「タテマエ抜きの教育論」は、ふたりの元・先生(木村泰子×菊池省三)による対談を収録した本だ。

「教育を、現場から本気で変えよう!」という副題がついている。


タテマエ抜きの教育論/2017年/木村泰子・菊池省三/小学館

 

次男が通う小学校を見ていて「学校は本気で変わらないと、どうしょうもない状態だ」と日頃から感じるので、この本を手に取った。年々「体調不良」という理由で退職する先生が増えている。

この本では、今の教育環境・校長の在り方について辛辣な意見が飛び交う。

タイトル通り「タテマエ抜き」である。

この本を読むと、学校の仕組みというか考え方がよくわかる。

本音で語られているので、著者であるおふたりの熱意が伝わってくる。

本音で書かれているから、私自身は読んでいて気持ちよかった。

が、学校関係者以外には本音過ぎるかも。

「タテマエ抜きの教育論」は、木村泰子さんの書籍のなかでは先生や専門家向けの本といえる。

学校の仕組みを良く知らない一般保護者にはこの本は刺激が強すぎるかも。

でも、これくらい言える強い気持ちで居ないと、今の学校を変えていくのは難しいと思う。

保護者向けのふんわりとした教育論を望む人には、同じ著者(木村泰子氏)による『「ふつうの子」なんて、どこにもいない』という本をすすめる。

 

全国学力調査の「無益さ」

この本では、全国学力調査の弊害について詳しく書かれている。

少し前、いくつかの県で全国学力調査について事前練習をしていたことが大きく報道された。

学力テスト〝全国トップ〟の石川県 小中4割で過去問など事前対策、「趣旨逸脱」指摘も

報道されるまでもなく、全国学力調査では東北と北陸のいくつかの県がいつも上位に来ているのが不可解だと以前から思っていた。事前対策しているはずだと思っていたから案の定である。

この本にも全国学力調査のための事前練習について触れられている。

全国学力調査で低い成績をとると思われる要支援の子を特別支援学級に送れば試験を受けなくて済むので、低学力の子をどんどん特別支援学級に送り込んでいる県があるそうだ。

現状、全国学力調査での私学の参加率は40-60%らしい。

「全国学力・学習状況調査」への不参加と本校の取り組み[Ⅱ-322]

全国学力調査は私学の参加減る

小学校(私学の割合が低い)はともかく、東京・神奈川・大阪などの都市部では私立中学の割合が多いので、少なくとも都市部に関しては、私学(成績上位層が多く在籍する)が参加しない全国学力調査は統計として意味を成さない。

すべての私学が全国学力調査に参加したならば、間違いなく東京が都道府県でトップの成績になるだろう。

「全国学力調査といった類いのテストは、ズルする都道府県が必ず出てくるので意味がない」ということを保護者が認識しておくのが大切だ。

地方は地元有力者の権限が強すぎるので、上の顔色ばかり窺う教育が止められないんだろう。

 

校長研修での校長の態度

著者のおふたりは全国各地で講演会に呼ばれている。

一般向けの講演会と違って、校長研修ではアウェイ感を感じることがあると著者らが述べているのが印象に残った。

今の教育に危機感を覚えた教育長が著者らを校長研修に呼ぶと、教育長の前では頷いて話を聞いているのに、教育長が居なくなった途端に「今の話はちょっと…どうだろう」と校長たちが話し始める。上の顔色を伺いながら話を進めるタイプばかりが校長になっている、ということである。

 

特別支援教育について

木村泰子氏は他の著書と同様に「分ける教育」・「現状の特別支援教育」の危険性をこの本でも述べている。

この本の中で、幼少期からの投薬について木村氏は疑問を投げかける。

木村氏が校長として実際に多くのケースに携わって経験したからこそ言える言葉である。

こどもを大人しくさせるために投薬するらしいが、そんなに子どもに薬を飲ませているのか。

木村氏いわく「転校前は服薬していたが、大空小学校に来てしばらくすると服薬が要らなくなる」そうだ。

学校環境が整えば服薬など要らない、ということだ。

大空小学校のようにインクルーシブ教育を実践している学校は本当に数が少ない。

実践しようとする先生は(どこかに居るかもしれないが)、本当に少ないんだろう。

特別支援学級に在籍する生徒で一杯になって空中分解するまでは「困った子を特別支援学級に押し込む」という流れは変えられないのだろうか。

もう一切授業は難しいよな…とこの本を読むとあらためて思う。

 

思ったこと

現実には、大空小学校と同じような学校を作ろうと思っても、校長が相当の覚悟を持っていないと実現は難しいと思う。

次男が通う公立小を見ていると、今まで通りの「基礎的な読み書き計算能力の定着」と新しい学習「体験学習・英語学習・プレゼン等」の両立を図ろうとする結果、ギチギチの詰め込み授業になっている。

先生方は教材を準備するのが大変だろうと感じる。

そして、こどもたちにとってはどうなのだろう。

基礎的な読み書き計算が身についている子には、体験学習やプレゼンはそれほど負担にならないだろう。

でも、基本的な読み書き計算が身についていない子にとって、読み書き計算の定着と発表学習の両方を求められるため負担が重い。結果として、どっちも身につかない(読み書き計算も定着しないし、プレゼンのための資料作りは単なる「作業」になる)リスクがある。

次男を見ていると、一斉授業の中で発表学習を取り入れているので、作成するプレゼン資料作成が「タブレットを使った流れ作業」になっている感もある。

どう見ても、こどもたちの学力は二極化しているし、先生方の負担は以前より増えている。

そして、学年が上がるにつれて、一律に同じ教材を使うのはどんどん難しくなっていく。

学校の大人数一斉授業はなんとか止められないものだろうか。

 

 

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